ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

イソップ寓話集・傑作選 400話から471話まで

これまでの経緯。

どうせやることないのでイソップ寓話を読もうという企画が3月から始まりました。

子供の頃に絵本などで接したおぼろげな記憶で知ってるつもりになっている自分が急に恥ずかしくなったからでした。

私が手に取ったのはこれ。
岩波文庫から出版されている中務哲郎の翻訳『イソップ寓話集』です。



物理の本がお好みならこちら。


毎日少しずつ読み進めて、やっと全471話を読み終えました。
最終話を読み終えた時には謎の感動が襲ってきました。
何ヶ月もかけて少しずつ進めていくって、目的がどんなものでも感動するんですね。

最終話の後には「解説」がありました。
「解説」については専門的すぎるので流し読みに止めます。
ただ、興味の湧いたイソップ伝の内容はほとんど創作と言い切られてしまったのはしょぼんでした。
ざっくり読んだ限りでは、図書館に古典的名著をアーカイブするにあたって、著作者のバックボーンについての紹介文をまとめるのが流行したらしく、それっぽいエピソード「盛り」まくった物が語り継がれたようです。


今回は完結したので400話から471話までとなっています。

今回も「初めて知ったけど面白かった話」「誰もが知っているけど話のニュアンスを少し違えて記憶していた話」「簡単でもいいから紹介したい話」の三つに分けています。

おさらいしておきたい方には、過去の記事も紹介しておきます。
100話を区切りとして面白かったのが印象に残ったものを傑作選として紹介していました。

yasushiito.hatenablog.com

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イソップ寓話集・傑作選 400話から471話まで。

第402話 猟師と馬乗り

猟師が兎を捕まえ、これをぶら下げて歩いていた。
・・・略・・・
ところが馬上の男は、猟師から兎を受けとるや否や、たちまち駆け去った。
・・・略・・・
「もう行くがいい、兎は疾うからお前にやるつもりだったんだ」
心ならずも自分のものを奪われたのに、進んで与えるような振りをする人が多い、ということをこの話は説き明かしている。

「借りパク」ならぬ「買いパク」
気を持たせて盗むってダブルにひどいでしょ。
ありがちすぎて何気ない話なのに、見過ごされがちな人間の本質を描いていたので選出です。
騙されて被害にあっているのに、自分が騙されるような愚か者であることを認めたくないために、相手の罪をゼロにしてしまうことってありません?
逆すっぱいぶどう的な?
クラスから仲間はずれにされているのに「あいつらつまんねーから俺が無視してんだよ」とか、ありそう。
私も諦めることを余儀なくされることが多いので自分と重ねてしまいました。

第455話 モーモスとアフロディテ

君はモーモスとアプロディテをめぐる古い話を甦らせたように見え る。こういう話だ。
アプロディテが美しく粧って坐っていたが、モーモスはけちの付けようがないので、苛々して爆発寸前だった。ついに女神を諦めて、 女神の履きものをからかった。
こうしてアプロディテは悪口をたたかれることがなく、モーモスは人を褒めることがない、ということになった。
君も舞台を褒めながら舞台脇にけちをつけ、議論はそっちのけで枝葉末節にばかり目をやったのだ。

お久しぶりですモーモスさん、また会えるとは思いませんでした。
キャラ立ってるので選出です。
ゼウスとアテナに喧嘩を売ってオリュンポスから追放されたはずなのに舞い戻ってきてますね。
あらゆるものにケチをつけるモーモスですが、アフロディテの美しさにはぐうの音も出なかったようですね。
助平心から手加減が働いたのでしょうか?
実はこの教訓はとても重要で、 SNS 時代に心得ておいて損はない話だと思います。
人はケチのつけようがないと、どうでもいい細かいところにツッコミを入れて勝った気分になろうとするものです。
意見を出しているのにブスとか BBA とか言い出したら傷つく必要はありません。
議論に負けたからどうでもいいところにケチをつけているのです。
そう言われても、心無い言葉には傷つくのですが、 この話を引っ張って来れば言い返すことができます。
議論から逃げ出したものを相手にしなくてもいいですよ。

第457話 若者と暴れ馬

暴れ馬に乗ってひどい目に遭った人の話があるが、君たちの状態はそれに似ている。
馬がその男をひっ攫い連れ去ったが、馬が疾駆するので、男はもう下りることができない。出会った人が、どこへ行くのだ、と尋ねたところ、男は馬を指差しながら、
「こいつの行きたい所だ」と答えた。
君たちももし、
「どこへ行く気だ」と訊かれたら、
・・・略・・・
貪欲が決める所 へ、と答えるだろう。

自分の欲望を暴れ馬に例えている話です。
欲望に飲まれて理性を失ってしまえば、暴れ馬にまたがった男と同様に事故って痛い目にあうまで止まれません。
ありがちな例えかもしれませんが感心したので選出です。
特に性欲は厄介ですね。
一旦燃え上がったらダメだとわかっていても止まりませんからね。
男はみんなケンタウロス
下半身は暴れ馬。
それ以外にも名声とか富とか自分を律することは難しい。
学問に対する好奇心でも暴れ馬と言われるのでしょうかね?

第459話 ロバの覗き

焼物師が仕事場に沢山の鳥を飼っていた。
驢馬が通りかかったが、 驢馬追いが後からしっかりと追わないものだから、小窓から覗きこんで鳥をびっくりさせた。
・・・略・・・
罪状は何だ、と訊かれて、「驢馬の覗きだ」と答えた。

すごいくだらない話なのに引き込まれたので選出です。
ペットの監督不行届話を少しずつ盛り上げながら、どうしようもないところに落とすところが落語の小噺っぽくて好きです。
ロバが家の誰かを驚かせた話であれば、どんな話でもくっつけられるわけですが、間の持たせ方が私にとってはジャストサイズでした。
実際に裁判になったら判決はどうなるのでしょうね。

第468話 月と母親

クレオブリネが語った話であるが、月が母親に、体にぴったりと合う服を織っておくれ、と頼んだところ、母親はこう答えた。
「どうしてぴったりのが織れるのさ。お前は今は満月だが、やがて - 三日月になり、そしてまた両ぶくれになるじゃないか」
「同じように、ケルシアス君、
・・・略

月を擬人化して服を着させる発想の飛ばし方に感心しました。
その上で、子供の希望通りに答えられない理由をわかりやすく伝えて同意させておいてからチクリとやる。
話の展開が上手ですね。
教訓としても面白い。
こち亀両さんみたいに、うまくいっているのに調子に乗りすぎて台無しにしてしまう姿を思い浮かべました。
ギャンブルにうつつを抜かしてその日暮らしをしている人にはありがちですね。
これからはその様子を月の満ち欠けで例えてみたいと思います。

選出外の鉄板エピソード。

ダチョウ。
コウモリ外交に似た話。
ダチョウは鳥のようで動物のようでもあるから、どっちつかずでごまかした。

キツネと鶴。
狐が鶴を食事に招いたが、平べったい皿にスープが入った料理を出した。
長い嘴が邪魔してスープを飲めずに恥をかかされた鶴は、お礼に狐を食事に招いた。
食事は細長い筒に入っていたので、キツネの口が筒の奥まで届かず 食べられなかった。
この話は有名だけど、言いたいことは知らなかった。
小難しい話をしたがる人が宴会に呼ばれても、大半の人には迷惑なばかりで相手にもされない。
みんなで酔っ払って下品な話をして歌うから、呼ばれた方が腹が立つだけ。
親睦のための飲み会がいざこざの元になってしまうという教訓だった。
わかるわー。
現代の飲み会と全然変わらないのな。


羊の皮を着た狼。
狼が羊の皮をかぶって潜入する話。
潜入には成功するのだが、羊飼いが今晩のシチューの肉にするために羊を屠殺しようとして引っ張って行ったのが狼羊だった。
つまりこの話を引用する場合、悪巧みのつもりで殺される失敗者の話である。

見逃せないエピソード。

本文全体を紹介し切れないけども、私の胸に引っかかったエピソードを集めました。
私がざっくりと要約しているので、意味を取り違えていることや、 要約になっていない可能性は存分にあります。
是非とも書籍でご確認ください。


若者と老女。
最初は人助けのつもりで親切にしても、 助平心が働いて、人助けと言い訳しながら、 繰り返しヤッちゃう話。
「恋愛の悩み相談」乗っているうちに関係をもっちゃう話はよく聞きますね。
政治にもこういう話は多くて、苦しんでいる人たちを救うために良かれと思って作った法律だったが、みんなが便利に使う間に穴が見つかって利権にされるパターンは聞きますね。
この話の場合は老女の方が「その気」のようで win-win だから好きにすればいいと思いますが。


イソップと牝犬。
イソップの二次創作。
法廷でイソップのようにうまいこと言って一本取るとかっこいいという流行があったらしい。
残念ながらこの話は出来が良くない。
酔っ払って女に暴行を働いた男が、訴えられそうになって、「女は黙って働いてろ」と圧力をかけるための話。
出来の悪い話をアーカイブすんなよと突っ込みたくなるが、晒し上げだろうか?
ちなみにイソップ寓話には「シュバリスの女」という話があって、「あの女に殴られた」と自作自演する男に対して女が「黙って包帯でも買いに行け」とやりこめる話がある。

まとめ。

最後まで楽しかったですね。
私が傑作選に入れたやつ、全く面白くないかもしれません。
たまたま私の人生経験でツボに入った話が選ばれたりするものです。
皮肉の効いたユーモアのある作品が選ばれる傾向にあると思います。
逆に私にとっては全く心に引っかかりもせず落選したエピソードの中にも会心の出来栄えの物があるかもしれません。
何しろ471話もあるんですから、100話くらいは心に引っかかる話があるんじゃないですか?
100話、侮れない数です。
半分以上つまんないと捨ててしまうのはもったいない。
是非とも噛み締めながら読んでいただきたいです。