ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

イソップ寓話集、傑作選 300話から400話まで

これまでの経緯。

どうせやることないのでイソップ寓話を読もうという企画が3月頃から始まりました。

子供の頃に絵本などで読んだおぼろげな記憶を引きずったまま、すっかり選んだつもりになってしまう事ってありますよね。
そんなおじさんが得意気になってニュアンスを履き違えた 寓話として引用しては恥ずかしいのではないかと急に怖くなりました。
自意識が発動したとでも言うべきでしょう。
それで落ち着いてちゃんとしたものを読もうと考えました。
このような人生の教訓は少しずつ味わってゆっくり読んだ方が理解度が高いと思ったので、毎日2話ずつ読み進めてきました。

5月頃には100話まで到達したので、特に印象に残ったものをまとめました。

yasushiito.hatenablog.com

その後は PC が壊れると言うアクシデントがありながらも8月には200話まで到達。

yasushiito.hatenablog.com

9月に入院して中断した後は10月に300話に到達。

yasushiito.hatenablog.com

10月からは1日4話ずつにペースを上げて、今回11月。
400話まで到達しました。
さすがに300話の下敷きがあるとパターンがつかめてきて傑作のハードルが上がってきました。
このペースなら年内にも完結できそうです。

イソップ寓話集について。

イソップ寓話とイソップについて軽く触れておきます。
イソップ寓話は紀元前、古代ギリシャに実在した人物で、現地ではアイソーポスと呼ばれます。
奴隷の身分でありましたが、話の上手さを認められて解放されます。
その後各地を放浪しながら、数々の教訓を含んだ寓話をつむぎだします。
その噂は瞬く間に広まり、彼の言葉は長く言い伝えられ、書物にもまとめられ、今もまだ脈々と語り継がれています。
2000年以上に渡る長い歴史の中で、イソップが語ったものも、そうでないものも、教訓めいた寓話はイソップのものとして伝えられました。
日本には戦国時代あたりに宣教師によって持ち込まれました。
鎖国時代にも道徳教育の教材として昔話風にアレンジされて受け入れられました。

私が利用しているテキストは、岩波文庫から出版されている、中務哲郎の翻訳による『イソップ寓話集』です。
収録されている寓話の数は471話。
参照した文献ごとに章立てになっています。

私は電子書籍版を利用しています。


物理の書籍はこちら。


イソップの最期について。

今回、第5章に入りますと、イソップの悲劇についての話が出てきます。
イソップはデルポイ(デルフォイ)に身を寄せたところ、彼らに濡れ衣を被せられて崖から突き落とされそうになります。
どうしてデルポイに流れ着いたのか?
なぜデルポイ人とこじれたのか?
このピンチを得意の弁舌で切り抜けられるのか?
気になってしょうがないじゃないか。
拙いながらも検索して調べました。

Wikipedia によると、デルポイ古代ギリシャのポーキス地方にあった町で、遺跡は世界文化遺産に指定されています。

ja.wikipedia.org

デルポイアポロンの神託を行う町としてギリシャの各ポリスの政治にも関わる権威を持っていたので、賄賂も含めてたくさんの供物が捧げられたようです。

イソップの濡れ衣については、興味深い話を見つけたので引用してみます。

言い伝えでは、彼[アイソーポス]はある時デルポイに行ったが、彼らをからかって、耕して身過ぎ世過ぎとする大地を持たず、いたずらに神の奉納物で生きながらえているといった。そこでデルポイ人たちは怒って、聖なる大杯(phiale)を彼の道具類に忍ばせた。そうして、彼は何も知らずにポーキスへ向かう旅に出発した。そこで彼ら〔デルポイ人たち〕が襲いかかって、〔大杯を〕探り出し、彼を神殿荒らしの罪で告発した。こうして彼は神殿と都市から程遠からぬ断崖(神殿荒らしはここから突き落とすのが定めだった)に連行されたとき、クソムシの寓話(mythos)を彼らに語った。

イソップをめぐる証言集

ひとが参内してこの神に供犠しようとするとき、デルポイ人たちは戦刀(machaira)を身におびて祭壇を取り囲み、犠牲獣[原文のままでは"hiere[o]s〔神官〕]の喉が切り裂かれ、犠牲獣の皮が剥ぎ取られ、臓物が掻き出されると、まわりに立っている者たちがめいめい自分の力の及ぶかぎりの分け前を切り取って立ち去る、そのため、供犠した当人が分け前なしで立ち去ることしばしばであった。このことでアイソーポスはデルポイ人たちを悪く言い、嘲笑したので、これに多衆が怒り、彼に投石し、崖下に突き落とした。

イソップをめぐる証言集

ということで、イソップはピンチを切り抜けられずに突き落とされて死んだようですね。
デルポイの宗教儀式の段取りがイソップの倫理観に合わなかったので disりまくってたらデルポイ人がガチでキレてハメ殺したという流れのようです。
イソップにとっては額に汗して働かずに、神から下されるおこぼれにあずかって生活するデルポイ人が許せなかったようですね。


イソップ寓話集の第5章では、イソップがこの時に残した寓話がいくつも記載されています。
全部は紹介しきれなかったので、ほんの一部の抜粋になりました。
詳しくは書籍をご覧ください。


イソップの生涯は比較的新しい文献しか存在せずにイソップ伝という形でまとめられているようです。
イソップ伝の一般向けの書籍を見つけることはできませんでした。
イソップは色黒または黒人で、顔は不細工、背中は曲がって、ひどいどもりだったそうです。
吃音の人がこんなに雄弁に話せるのが謎ですが、本番に強いタイプなんでしょうか?

イソップの生涯は、ちくま新書から出ているイソップ寓話の世界という本の第3章で記述されているっぽいのですが、ここで新たに積んどくはできないので 今後の楽しみに残しておきます。

イソップ寓話集・傑作選 300話から400話まで。

第332話 鈴をつけた犬。

いきなり噛む犬がいた。主人は鈴を作らせると、首に結わえつけ、 遠くからでも分かるようにした。犬は鈴を振り振り、これ見よがしに 広場を歩きまわったが、老犬がこれを見て言うには、
「可哀そうに。何を自慢しているのじゃ。それは美徳やお行儀の褒美ではない、己れの悪性の証しを鳴らしているんだぞ」

武勇伝とかやんちゃ自慢をする人に使う話ですね。
飲み会の席などで、こんなちゃちゃ入れなんてしたらこっちがいきなり噛み付く犬の扱いをうけますね。
昔は悪いことをすると坊主にされたり顔に入れ墨されたので、スキンヘッドと刺青を見せびらかしてドヤる人にはドンピシャですね。
その状況でたしなめたとしたら、この老人はとんでもないメンタルですね。

第334話 ライオンの治世。

あるライオンが王位に即くことになった。怒りっぽくなく残忍でも なく、万事暴力で決することを好まず、人間の誰かさんのように穏和で正しいライオンだった。話によると、その治世に野に棲む動物たちの集会があって、お互いに罪の償いをしたりされたりしたという。狼は羊の、豹は山羊の、虎は鹿の裁きを受けるという具合に、皆が裁きに服し、皆が平和の裡にあったので、臆病者の兎はこう言った。
「この日の来るのをずっと祈っていたのです。弱い者が猛き者にも恐れられる、そんな日を」

いわゆるかわいそうランキング。
この臆病者のうさぎがその後どう振る舞ったかは気になるところですが、今の世の中の流れに合っているなと思ったので選出です。
LGBT ・ Black lives matter運動はじめ Me Too運動など、 これまで声を上げられなかった弱者達が盛んに発信できるようになりました。
かわいそうな状況の障害者である私は、ここで言う'うさぎ'なので利害関係ど真ん中です。
温和で正しいライオンが世界を支配した時の思考実験はイソップもやってたんですね。
現実社会では反省するどころか開き直ってますが。
虎や狼にも及ばない。

第350話 愛人と亭主

真夜中に、少年が良い声で歌っていた。女房がこれを聞き、
・・・略・・・
戸口の外へ出て、思いを遂げてしまった。
亭主が突然目を覚まし、女房を探したが、
・・・略・・・
連合を見つけると、 「びっくりしなくていい。その子に、わしらの家で寝るよう言ってやりな」と言った。そして、手をとって連れこんだ。それからは亭主も、二人のことがしたくなる度に、こっちの方で楽しんだ。
という次第だ。この話の意味は、仕返しができる時にポカンと口を 開けていてはいけない、ということだ。

意味が分からずに読み返しました。
それでも釈然としないので、このもやもやをシェアしたくて選出しました。
公然と浮気をできる権利を手に入れたということでいいのかな?
それで仕返しになっているのだろうか?
誰も損しているように見えないので、いい話なのかなあ?
NTR、 いわゆる寝取られることに興奮を覚えると考えることもできるけど、普通に考えれば合意の上の W 不倫だよね。
翻訳の時に意味深になったのかもしれないけど、イソップさん気を持たせないで。

第354話 鼠と鍛冶屋

鼠が飢えて死んだ仲間を運び出そうとしていた。鍛冶屋たちがそれを見て大笑い。まだ生きている鼠が、目に涙を一杯ためて言うには、 「お前たちだって、鼠一匹養えないくせに」

冷静に考えれば鼠たちの言い分は盗人猛々しいのだけど、思わずかわいそうになって丸め込まれそうになったので選出しました。
まあ確かにネズミの餌になる程度のおやつすら買えないようでは、ネズミの貧困を笑えないのは確かです。
イソップのユーモアが冴えたお話でした。
ここまで話を読んできて、イソップ寓話でネズミに例えられるのは奴隷のように虐げられている人たちのことぽいですね。
ホームレス一人養えない社会が豊かとは思えないと言われればぐうの音も出ませんわ。

第377話 燕の自慢と嘴細烏

法螺吹は嘘をつきながら、われとわが言葉でぼろを出す、ということ。
燕が嘴細烏に対して、 「私は生娘で、アテナイの生れで、王女で、アテナイ王の娘なのよ」と語り、さらに、テレウスによる強姦や舌を切られた話までつけ加えた。すると、嘴細烏の言うには、
「舌を切られてもそれだけのおしゃべり、舌があったらどうなって いたでしょう」

キンキン声でまくし立ててる様子が絵に書いたように思い浮かびました。
おしゃべりな女性のマシンガントークを受けるとすり減りますよね。
とはいえ、これだけ不用意にしっぽを出すおっちょこちょいは憎めない。
喋れば喋るほど自滅するので、どこまで破綻するか観察してしまいます。
きっとカラスもそんな気分だったでしょう。
ところでギリシャ神話でツバメといえばピロメーラーのことを指します。
義理の兄に強姦されて告発しようとしたら舌を切られて小屋に閉じ込められたということです。
それでツバメは鳴かない鳥となったわけですが、自分の悲しい過去をこんな明け透けに自慢するなんて、おしゃべりにもほどがありますね。
そりゃカラスにもたしなめられますわ。
ja.wikipedia.org

第379話 娘に恋をした男

ここからは第5章です。
イソップ伝の イソップ本人に関するエピソードが複数登場します。

自分の娘に恋をした男がいた。恋の痛みに耐えかねて、女房を田舎へやると、娘を力ずくで 辱めた。娘は言った、
「お父さん、畜生のようなことをしてくれたわ。こんなことなら、 百人の男に身を任す方がよかった」 「デルポイ人よ、お前たちに対する私の気持も
・・・略

なんだこのグロテスクの話は! とドン引きしたので選出です。
デルポイで濡れ衣を被せられ、罰として崖の上から突き落とされそうになった時に使った話です。
その経緯は冒頭に書きましたね。
自分を年頃の娘に例えるなんてイソップもなかなかの勇気ですね。
デルポイ人も最初はイソップを娘のように可愛がったということですかね。
それでも崖から突き落とされたということは、娘を手篭めにすることも辞さないほどデルポイ人は怒っていたということでしょうか。

第384話 鼠と蛙

動物たちが同じ言葉を話していた頃のこと、鼠が蛙と仲よくなって、
・・・略・・・
鼠を沼に連れて来ると、 「さあ、泳いで」と言った。 「僕は泳げない」と鼠が言うと、蛙は、
「教えてあげる」と言うなり、鼠の足と自分の足を紐で結びつけて、 沼に跳びこみ、
・・・略・・・
蛙は水に潜って相棒を溺れさせた。だが、死んで水面を漂う鼠に烏が襲いかかると、紐で結ばれた蛙も一蓮托生で、鼠は食われ蛙も捕まってしまった。こうして鼠は、蛙に仇討ちを果たしたのだ。

イソップ寓話らしい皮肉に溢れた話だったので選出です。
これもイソップ伝の崖から落とされる場面の一節で、『たとえ自分が落とされても、 どんな形であっても誰かが仇を討つ』と宣言した時の話。
アクション映画でもこんな場面ありますよね。
崖の上から落とされる寸前に敵の足に縄をくくりつけて一蓮托生にするところ。
もちろんその後は枝に引っかかってアメリカンクラッカーみたいな状態で取っ組み合うんだ。
あるある。
でもネズミとカエルの関係がこの状況と一致していないように思うので、例え話としては外れてるかな?
イソップネズミがカエルに与えたごちそうとは何だったのでしょうね。
イソップネズミにとって「泳ぐ」とはどんな行為だったのか。
想像力を膨らませて何度も読み返すと味わい深いですね。



選出外の鉄板エピソード。

誰でも知っているような有名なエピソードを紹介します。

感想一言と、記憶違いしていた点だけに絞ってます。

ゼウスと善の瓶。
ゼウスから蓋のある瓶を与えられた男が興味本位に蓋を開けた。
中にはこの世の全ての善なる者が入っていたが、全て神の館に逃げ帰ってしまい、希望だけが残った。

俗にいうパンドラの箱
ギリシャ神話ではパンドラは人類初の女性で、中には災疫が入っていて、世界に蔓延させてしまった愚か者として描かれる。
イソップ寓話は男としている。


田舎のネズミと町のネズミ。
都会は素敵なものがたくさんあるけど常に命がけだから貧しくても安全な田舎の方が良いという話。
町のネズミまで田舎に行ったわけじゃないので、慣れ親しんだ場所が良いということだね。

見逃せないエピソード。

本文全体を紹介しきれなかったけど、私も胸に引っかかったエピソードを集めました。
私が要約したのでニュアンスの違いがあるかもしれません。
是非とも書籍でご確認ください。

狼と犬の戦争。
犬とオオカミが戦争になった。
様々な種類の犬が集まり、その中から将軍が決められた。
しかし将軍は軍を進まずグズグズするばかりだった。
焦れた犬の一匹がそれをなじると将軍は
「狼は狼として一枚岩だが、我々は犬と言っても色も大きさもバラバラだ。これで戦うのは難しい」
と答えた。

楚の項羽みたいに大将の首を落として快進撃を続けるのかとドキドキしちゃって。
犬には分からないだけで、狼には狼の派閥があって一枚岩ではないと思うけどね。
立場の違う連合軍を指揮するのが難しいことを知っているだけでも優れた将軍だね。
この勢いでは戦っても負けるし、時を浪費しても負けるんだろうね。


母猿とゼウス。
ゼウスが可愛い赤ちゃんコンテストを開いた。
猿が連れてきた赤ちゃんがあまりにもブサイクだったためみんなが笑ったが、母親は「優勝決めるのはゼウス次第だが、私にとってはこの子が一番」と答えた。

いいお母さんだね。
ほっこり。


話蝉と蟻。
ある冬の日、蟻のところにセミがやってきて食べ物を少し分けてくれと頼み込んだ。
蟻は「夏の間、何をしていたのか」とセミに問いただすと「忙しく歌っていました」と答えたので「夏に歌っていたなら冬は踊れ」と取り合わなかった。
俗に言うアリとキリギリスの続編。
徹底的に蟻は冷たい。
続編でまで死体蹴りされて同情を禁じ得ない。

最後に。

イソップことアイソーポスさんが悲しい結末を迎える話が印象的でした。
今更ながらだけど、イソップの人となりを知ってから読んだ方が分かりやすかったかもしれませんね。
ライオンが支配者を意味するのは簡単にわかりますが、ネズミがイソップ及び奴隷的貧困層と気づくには時間がかかりました。
残り71話。

追記。
完結しました。

yasushiito.hatenablog.com