ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

イソップ寓話集・傑作選 1話から100話まで

外出自粛が続いて昔の作品を楽しむ機会が増えていると思います。
私も心を落ち着けるために過去の名作を掘り返すことにしました。
そこで選んだのが「イソップ寓話」でした。
yasushiito.hatenablog.com

誰もが知っている名作でも、大人になって読み返してみると意味が変わって読めたり、勘違いして覚えていることが往々にしてあります。
特にイソップ寓話は教訓めいた話が多いので、 ニュアンスが違う話もたくさんあると思うのです。
参考にしたのは、岩波文庫から出ているイソップ寓話集。
イソップ寓話集 著:イソップ 翻訳:中務哲郎 1999年」です。
400話以上も収録されている大作です。
私は自力でページをめくれないので Kindle 版で楽しんでます。




毎日2ページほど読み進めて、先日やっと100話まで到達しました。
ここらでいっちょ、面白いと思った小話をまとめて紹介したいと思います。
なお、北風と太陽、すっぱいぶどう、旅人と熊のような鉄板の話は扱いません。

第11話笛を吹く漁師。

笛の心得ある漁師が、笛と網とを持って浜に出た。岩の突端に立っ て、まず笛を奏でたのは、妙なる調べに誘われて、魚が自ずから出 て来るものと思ったのだ。ところが、いくら頑張って吹いても埒が あかないものだから、漁師は笛を横に置き、投網を取って水に投げ入れたところ、魚がどっさりとかかった。
獲れた魚を網から磯に放り出すと、ぱくぱくしながら跳ねるので、 漁師が言うには、 「いまいましい魚め、俺が笛を吹いている間は踊らなかったくせに、 止めた今ごろ踊りくさる」

やりたいこととできることが食い違っている者同士のすれ違い。
自意識過剰すぎて Twitter で不穏なつぶやきを繰り返して炎上するアーティストとかクリエイターの姿がチラチラ浮かぶ。
せっかく魚は集まっているのにね。


第16話猫と鶏。

猫が雄鶏をつかまえて、もっともらしい理由をつけて食ってやり たいと思った。そこでまず、夜中に時を作り安眠妨害をするから、人 間にとって迷惑だ、と難癖をつけた。
・・・略・・・
「お前がいつまでも言い訳に困らないからといって、俺がお前を食わぬとは思うなよ」
邪を好む悪しき性分は、たとえもっともらしい口実がなくても、 あからさまに悪事をなす、ということをこの話は説き明かしている。

気に入らない相手を、正論を並べ立てて糾弾する場面をよく見る。
しかし、どれだけ理屈を積み上げても最後は「あいつが気に食わない」という話だったりする。
いじめもこのパターンの典型。
悪いところをどれだけ直しても、別の悪いところを指摘して攻撃し続ける。
そして最後は暴力に訴える。
自分が猫になってしまわないように気をつけよう。

第28話くわせもの。

貧しい男が病に臥し、病勢いよいよ募った時、命を救って下さったなら、ヘカトンベーを捧げます、と神々に祈った。
・・・略・・・
海岸へ行くがよい、行けばアテナイ銀貨で千ドラクメになるであろ う、と告げさせた。
男は欣喜雀躍、海辺に駆けつけたが、そこで海賊の手に落ち連れ去 られ、売り飛ばされて、千ドラクメになったのだ。 この話は嘘つきにぴったりだ。

神様を騙した曲者が神様にとんちてやり返された話。
確かに神様は「 お前が大金を手にできる」とは一言も言ってない。
神との約束は守らねばならないという教えなんだろうけど、現在地にとっては笑える小話 というパターンもある。

第44話王様を欲しがる蛙

自分たちに支配者がいないことを苦にした蛙たちが、ゼウスの所へ使者を送って、王様を授けて下さい、と頼んだ。ゼウスはこの連中の愚かなのを見すかして、池に木ぎれを放りこんでやった。
・・・略・・・
蛙たちは再びゼウスを訪ね、支配者を取り替えてほしいと願った。最初のは余りにも愚図だというのだ。すると、ゼウスが大いに腹をたて、水蛇を遣わしたので、蛙たちは捕まって食われていった。
支配者にするには、事を好むならず者より、愚図でも悪事を働かぬ 者がまだましだ、とこの話は説き明かしている。

韓非子みたいな話だなと思った。
我々凡人は強くて指導力のあるリーダーを求めがちだが、権力が暴走すると普通の暮らしすらままならない苦難が訪れる。
強いリーダーを求めても期待通りにはいかないものだ。
小馬鹿にしても実害がないくらい平凡な地味な指導者の方が安全だという教訓。
政治が及ぼす危険性も教えてくれる。

第45話牛と車軸

牛たちが荷車を曳いていた。荷車の車軸がキシキシと鳴るので、振り返って言うには、 「こら、重荷を丸ごと運ぶのは俺たちなのに、お前が悲鳴をあげる のか」
このように人間の場合でも、他人の働きを自分の苦労のように見せ かける人が時にいるものだ。

一瞬考え込んだ後に、くすりと笑ってしまった。
しかも図星をつかれている。
こんな例え話のやり方があるんだ。
落ちがわからないまま話が終わる小話もよくあるが、そっちの方が後からじわじわくる。

第82話 驢馬と雄鶏とライオン

驢馬と雄鶏が一つ小屋の中にいた。腹をすかせたライオンが颯馬を認め、押し入って平らげてやろうとしたが、雄鶏が鳴いたので、
・・・略・・・
驢馬がライオンを見下し有頂天になって、小屋をとび出し追いかけて行った。そして、遠くまで来て、食われてしまった。
このように人間の場合でも、敵が辞を低くするのを見たばかりに大胆になり、 うかうかと殺されてしまう人がいるものだ。

ブレーメンの音楽隊の元ネタかと予想していたが、全然違うところに落ちた。
食うか食われるかの話はたくさん出てくるが、どちらが勝つかの法則性はないので最後までハラハラする。
今回は食われる方の自滅で、トムとジェリーに出てきそうなパターン。
風に揺れたカーテンでトムを驚かそうとして調子に乗っている間に正体がばれるやつ。
虎の威を借る狐も最後はこういう運命だったのかな。

第85話仔豚と羊

仔豚が羊の群にまぎれこんで草を食んでいた。ある時、羊飼に捕まったので、
・・・略・・・
「僕と君たちとでは、捕まる意味が違う。君たちが引ったてられるのは羊毛か乳のためだが、僕の場合は肉のためだ」
財産の危険どころか命の危険のある人が泣き騒ぐのは当然だ、ということをこの話は説き明かしている。


決定的に失ってはいけない何かは人によって変わってくる。
さすがに現代では、捕まると殺される立場はアウトローでしか味わえないので実感は伴わない。
その一方で、自分が平気だからといって、他人にとって命と言えるものをどうにかしてしまう話はどこにでもある。
人生をかけて集めてきたコレクションを勝手に売る家族とか。
みんなが自分と同じだと思ってはいけないし、自分がみんなと同じとも思ってはいけない。

面白かった。

イソップ寓話の面白さをわかっていただけたでしょうか?
どれもこれも面白くて紹介したい逸話が他にも沢山あるのですが、気に入ったものをみんな収録してしまうと引用の範囲を超えてしまうのでここまでにしておきます。
たいていのエピソードは1分で読めるので電車の待ち時間のお供に最適ですよ。


追記。
順調に読み進んで100話から200話までがまとまっています。

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こちらは文庫版です。
Kindle 版は文字が小さくて目がしょぼしょぼしたのでフォントを拡大しましたが、文庫版はどうなのかな。