ぺんちゃん日記

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三国志を読み返す 宮城谷昌光・三国志 第4巻の感想

宮城谷昌光三国志、全12回の中で第4巻となります。

これまでの流れ。

第3巻では、董卓が圧倒的な権力を握り、政治をほしいままにします。
それは許さぬと 各地の英雄たちは打倒董卓連合軍を集結。
足並みが揃わない中で孫堅が勝利して洛陽を奪還します。
董卓が洛陽を略奪して安全な長安に遷都します。
その間に連合軍は仲間割れ始めます。
特に袁術袁紹の骨肉の争いがひどく孫堅は振り回されっぱなしでした。
曹操董卓に戦いを挑むも敗北。
袁紹の派閥に入り、生き残りにかけます。


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曹操の台頭!!

第4巻では、曹操がいよいよ輝きだします。
黄巾の残党百万がはびこる 兗州を制圧し、 正式に兗州の牧となります。
そこまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。
黄巾党を制圧したのもつかの間、当時の中国の最大派閥である袁術の総攻撃を受けながら、これをなんとか撃退。
親友の張邈の裏切りにあい、 陳宮にも裏切られ、長安から落ち延びてきた 呂布の攻撃を受け、イナゴ被害の大飢饉までくらって、妻を袁紹に人質に差し出すことを真剣に考えるほどに苦しめられいました。
曹操の凄みは何と言ってもフットワークの軽さ。
怠惰な袁術、小心者の袁紹とは一線を画します。
よく戦い、よく負ける。
でも命だけは落とさずに再び立ち上がる。
なんとタフなことでしょう。
常にリスクと向き合い、 次々とやってくる無理難題に辛くも勝利する姿はヒーローそのものではありませんか。
それでいて才能と詩をこよなく愛する文化人の態度も失いません。
名声の高い士を丹念に調べ上げ、義理を欠かさず、礼をもって迎える態度が好感触だったのか、荀彧や程昱など、後の曹操を支える人材が集まってきます。
その一方で、曹操は父親が殺された復讐を果たすために、徐州の陶兼を徹底的に責め、市民まで虐殺する裏の顔も見せます。
これを機に歴史の表舞台に姿を現したのが劉備玄徳。
陶兼を助けに来たことで虐殺を行う曹操の対立軸となり、そのまま徐州を譲り受けます。
後に三国時代を築く英雄の中で活躍が最も早かった孫堅は事故死とも言えるあっけない戦死を遂げ、孫策にバトンが渡されます。

3人の英雄が頭角を現し始めましたが、それは歴史の後からみた我々の感想であり、 世の中の流れは袁術袁紹を中心に回っていました。
名声と功績に遜色はなく、彼らの 人間性を知らない有力者が続々と集まってきます。
この両家のいがみ合いは数々の遺恨を残して戦国の世に花を添えます。

西の長安ではもっと醜いいがみ合いが。
あんなにずる賢い董卓呂布に裏切られ、あっけなく死を遂げると、 クーデター首謀者の王允は政権を維持できず、李傕、郭汜などの軍部が権力を掌握。
献帝奪い合って仲間割れを始めたその隙に献帝は董承などの助けを借りて長安から脱出します。

第4巻はこんな形で終わっていきます。

三国志演義とは違った興奮。

さすがにこの辺は三国志演義や漫画などで繰り返し読んだところなので時代の流れは分かります。
しかし、それらは董卓劉備に重点が置かれており、 感情のやりどころはわかりやすいものの、 戦国ものとして捉えるには分かりづらい。
横山版の漫画などと読み比べてみると、カットされたエピソードや改変されたところがいくつも見つけられます。
曹操の人生を最も左右した官渡の戦いがカットされていることは有名ですが、袁術の全力の攻撃を受け退けたことも描かれていませんね。
董卓専横の裏で袁術袁紹がどんな醜い争いをしていたか、 そのトホホっぷりは読んでおいて損はありません。
もちろん袁術袁紹にも大義名分はあります。
董卓は少帝を力づくで退位 させて殺しますが、少帝は何進袁紹と力を合わせて即位させました。
献帝董卓の後ろ盾で即位したので、袁紹は 正当な継承者ではなく簒奪者とみなしました。
ましてや袁家のリーダー袁隗を殺したのも董卓であり、 少帝と董卓を認めるわけにはいかなかったのです。
袁術袁紹とはスタンスが違います。
皇帝が気に入らないからといって自分で勝手に皇帝を担ぎ上げて、「治安悪化で朝廷との通信が取れない」などと言い訳をかまし、 オレオレ詔を乱発するのは董卓以上の反逆行為 であるから、 董卓とはほどほどに付き合い、 チャンスがあれば手に入れた伝国の玉璽で自ら皇帝になろうと言う作戦。
二人の父親を手にかけた呂布は裏切り者の代名詞として扱われがちですが、 自身の手で皇帝に危害を加えたことはなく、 董卓を誅した手柄もあり、劉虞を新しい皇帝に立てようとする袁紹およびその派閥の曹操と 戦うのだから、見方によれば 勤皇の士とも言えます。
それぞれにもっともらしい理屈があるからこそ戦国乱世。
この泥沼の殴り合いを見ると、光栄の歴史シミュレーション三国志はうまい具合に再現できていたのだなあと思いました。



第5巻に続く。
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