ぺんちゃん日記

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三国志を読み返す 宮城谷昌光・三国志 第3巻の感想

宮城谷昌光三国志、全12巻の中で第3巻となります。


第2巻ではいよいよ黄巾の乱が勃発し、戦乱の時代へと移り変わっていきます。

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第3巻 三国志最大のヒール 董卓が時代を変える

これまでの勢力争いではことごとく勝利し続けていた宦官が破れて董卓が権力を握ります。
物語は董卓を中心に回りだし、地方に散らばった英雄たちは打倒董卓を目的として実力を蓄え群雄割拠の時代へと進んでいきます。

三国志で最高の悪役を演じてくれるのが董卓であることは間違いありません。
これまでの悪役、外戚及び宦官は 皇帝の権威を笠に隠れて甘い汁を吸ってきましたが、董卓はこれまで築き上げてきたものを全て破壊して軍事力を根拠に立ちはだかります。
学問を修めて人間的に優れた官僚が出世する時代は終わり、 埃にまみれて野宿することも辞さない武闘派が力を持つ時代へと変遷。
上官である張温に対する態度が実にふてぶてしい。
自分より弱い者を完全に見下しています。
董卓こそ三国志におけるゲームチェンジャーです。
軍人に出世のチャンスが訪れることを狙って黄巾の乱の鎮圧を手加減するなど、実に抜け目ない。
何進大将軍と宦官の争いの成り行きを離れすぎず近すぎるの距離から睨んで、共倒れになった瞬間を綺麗にかっさらうところがニクイですね。
董卓の悪行は数知れず。
皇帝を立て直したり、墓を荒らしたり、洛陽を焼き払って長安に遷都したり、廃した皇帝を殺害するなど清々しいまでの暴力を尽くします。
もはや皇帝の存在は漢王朝に忠義を尽くす人たちに対する人質でしかありません。
董卓はひどい男ですが、ルールは至ってシンプル。
喧嘩が強いやつが偉い。
こいつをぶっ潰して「ざまぁ」と言わせてくれるのは果たして誰でしょうか。
世の中のゲームチェンジに追随できなかった皇甫嵩の何とも残念なこと。

頭角を現す英雄たち。

活躍が目覚ましいのは孫堅でしょう。
己の武力で未来を切り開いたという点では董卓を越えます。
呂布を打ち破り洛陽に到達した時の輝きは 夏至の太陽のようでした。
中央政権に対する政治基盤の弱さから袁術の下働きをさせられるところが悲しいが、自信に満ち満ちて カラリとしていました。

曹操は戦の勝ち負けよりも行動の是非で訴えます。
連合軍が重い腰を上げないことを批判して一人で軍を進めたものの、董卓配下の徐栄に打ちのめされた結果は何ともほろ苦い。
負けても腐らず、すぐに立ち上がって天下のために働く姿はなんとも清々しい。
その行いは全国の賢者達に強い印象を与えたことでしょう。
何より彼の才能の愛し方が尋常ではない。
受けた恩を忘れず、失った才能に悲しみ、倫理を踏み外さず、詩を愛する。
彼の人柄は多くの有能な人材の心をつかみました。
もちろん読者も胸を打たれたことでしょう。
戦では華々しい武功は上がりませんでしたが手柄以上のものを得ました。
誰が誰と親交を交わし、何の仕事に心血を注いだか、世間の人は実によく見ているし、歴史で俯瞰するとより鮮明になりますね。
彼もまた袁紹の許しがないと 立場が危うい。
袁術袁紹はそれだけ力を持っていたということです。


袁紹は他人とは思えないほど私とメンタルが似通っていて 見ていてそわそわします。
中途半端な倫理観でイキリ倒して、ウケが良いと調子に乗って 大きなことをやりたがるけれど 、肝心のところでビビって人任せにしてしまう。
これ絶対私。
宦官が滅ぼされた後、董卓と対決する勇気があれば。
そのくせ自分より格下だと思う相手にはめっぽう強い。
なんで公孫瓚相手になると強いのだろう。
曹操と似たような正論を吐くが、行動の端々に利己的なところが透けて見えて天下を任せるには器が小さい。
家柄名声人材、何でも持っているのに意外とケチで使い切れてない。

袁術はやり方がせこい。
自分で汗を流さず人に指図して、口利きによるキックバックで利益を得ようとするタイプ。
御曹司の処世術としては的確なのであるが、 命がけで突っかかってくる連中お相手にするには弱い。
親戚の袁紹をバカにするなど、鼻持ちならない性格の上に、図らずしも伝国の玉璽を手に入れてしまったのだから増長します。
結局袁紹とは董卓が建てた献帝 の正当性を巡って対立し、 董卓そっちのけで骨肉の争いを始めます。
巻き込まれた公孫瓚孫堅劉表はいい迷惑。
小物感丸出しの袁術袁紹ですが、これでも宦官誅滅に尽力したり、董卓との対決姿勢を見せたりと、反骨精神だけはあるのです。


劉焉 は特筆したい。
後に劉備が本拠地とする 蜀の基盤を作った人であるが、 群雄割拠の未来をいち早く予言して安全な蜀の地に移る。
その際に、 大守と刺史に分かれて牽制することでバランスをとっていた地方の政治権力構造を改革して両者が一体化した牧を導入した。
この改革で地方の族等の鎮圧 機動力が高まったが、地方長官が 軍事力を持つことになり中央の言うことを聞かなくなっていった。

どんな時代だったか。

長安の西では異民族が度々暴れ回る。
馬騰漢王朝の異民族に対する扱いの酷さに憤りを覚えて首魁となって反乱を起こしたのだった。
黄巾の乱は首領の張角が早い段階で歴史から消えたが、 易姓革命の思想は根強く民衆の反乱は力を失わなかった。
南方の治安が悪く、武術に優れた孫堅を長沙太守に任命すると期待通りの活躍を見せる。
曹操は父親の曹崇が未だ現役で、霊帝爵位の販売戦略に乗っかって出世していたため、父とは距離を置いて静かにしていた。
袁紹は宦官を嫌って外戚何進大将軍頼った。
劉焉は安全な益州を希望する。

中央では、これまで概ね協調関係だった何進大将軍と宦官の関係が急速に悪化。
霊帝崩御したことによって後継者問題が浮上したためだった。
宦官たちは何皇后が産んだ弁王子ではなく協王子の側につき実権を握ろうとする。
何進大将軍の暗殺を計画するが失敗に終わり 弁王子が即位して少帝となった。
外戚と宦官の対決姿勢が強まると、宦官を嫌う袁紹何進大将軍と手を組んで地方の名士たちに檄を飛ばして宦官の打倒を呼びかける。
それに呼応した一人が董卓だった。
何進は妹の何皇后にも協力を呼びかけるが、宦官はこれまでもこれからも皇后の手足なので首を縦に振らない。
説得のために宮殿に足を踏み入れた何進大将軍は宦官に殺されてしまう。
袁紹は王宮になだれ込んで宦官たちを手当たり次第に殺戮。
宦官と外戚は共倒れに終わる。

このゴタゴタを狙って董卓は洛陽の都に入り出世欲の強い猛将の呂布口説き落として急速に兵力を蓄える。

袁紹董卓と対決する勇気が起きずに逃げ帰る。
董卓は怒ったが袁紹渤海の太守に任命して恩を売る。
董卓何進大将軍が即位させた少帝よりも幼くて操りやすい協王子を皇帝にしようとした。
盧植が強烈に反対したが董卓に恨まれて失脚し田舎で死ぬ。
少帝は廃され献帝が即位した。
少帝は降格された後、董卓に自殺を強要されて死ぬことになる。

曹操は些細なことで董卓に睨まれて都から脱出する。
親友の張バクが打倒董卓の号令を発して挙兵すると袁紹袁術など が集結するのを見るや、仲間を口説いて 軍を編成して合流に向かう。
連合軍は大軍となったが、董卓の強さに及び腰。
皇帝に向かって軍を進める後ろめたさも相まって先陣を押し付け合う。

董卓は洛陽の都は防衛が難しいことを熟知していたので長安に遷都することを考える。
官僚たちは難色を示すが強引に決定。
しかし長安周辺には名称と名高い皇甫嵩が異民族平定のために兵を与えられて駐屯しているので目障りだ。
董卓皇甫嵩を都に呼び寄せると投獄。命は助かったが歴史に埋没した。
,董卓は皇帝のみならず住民ごと長安に移住。
富豪達に無実の罪を着せて投獄 呂布に歴代皇帝の墓を盗掘させて洛陽の都に火を放ち非難を浴びる。

曹操は一向に動きを見せない連合軍に見切りをつけて、ただ一人自分の手勢を率いて 董卓との対決姿勢を見せる。
しかし運悪く董卓の配下徐栄と出くわして虚しくも敗北。
曹操は敗残兵を集めながらもう一度再起をかける。

その頃連合軍は兵糧を食い尽くして戦わないまま解散、それぞれが安全な場所に兵を引いた。
董卓は政治工作で袁術袁紹に使者を送り和睦を測ったがすでに袁家のリーダー袁隗を殺害していたので恨みが激しく使いのものを殺してしまう。
袁紹董卓の意のままに操られる献帝の正当性を認めず、血筋は遠いが評判の良い劉慮を立てようとしたが本人にあっさり断られる。

孫堅は次々と領地を切り取って力を蓄え、董卓打倒を果たすために袁術を頼る。
迷わず軍を進める孫堅
董卓徐栄向かわせる。
曹操を破った徐栄期待通りに孫堅に一泡吹かせる。
孫堅は怯まずにもう一度軍を再編して反撃する。
驚いた董卓呂布を向かわせるが孫堅はこれを撃破、袁術から半ば強引に食料を奪ってついに董卓と激突。
董卓孫堅の勢いを止められず長安に撤退する。
洛陽を奪還した孫堅は廃墟の井戸の中から伝国の玉璽を拾う。
それを聞きつけた袁術孫堅の家族を人質にして玉璽を要求、素直に差し出した孫堅豫州刺史に推挙する。
赴任した孫堅袁術袁紹の喧嘩に巻き込まれる。
袁紹は以前から血筋と人気の高い劉虞を献帝の代わりに押し建てようとしていたが、袁紹には応じず袁術の求めに応じたのが気に入らない。
さらに袁紹は勝手に豫州刺史を任命して派兵したので、事前に赴任していた孫堅と衝突する。
この戦いは孫堅が死守したが、これをきっかけに公孫瓚袁紹の関係は急速に悪化。袁紹は公孫さんに対抗するため冀州を韓馥から騙し取る。
公孫瓚袁術と組んで袁紹を挟み撃ちにしようとするが、袁紹も負けじと劉表と組んで 対抗する。
曹操袁紹の派閥に属して自分の領地を確保する。

ここで3巻は終了です。

第4巻に続きます。
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