ぺんちゃん日記

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三国志を読み返す 宮城谷昌光・三国志 第6巻の感想

宮城谷昌光三国志、全12巻の中で第6巻となります。

これまでの流れ。

天下無双と言われた呂布が破れ、うぬぼれ袁術が破綻、破竹の勢いの孫策が暗殺の刃に倒れ、保守的な劉表は天下を伺わず、劉備劉表の客人として髀肉の嘆
曹操袁紹のどちらかが天下を主宰することが決定的に。
天下分け目の官渡の戦いで勝利したのは曹操孟徳。
圧倒的不利な状況から敵の兵糧を焼き討ちする大胆な作戦で見事に勝利しました。
曹操の天下統一は時間の問題。
残りの弱小勢力を平らげる消化試合の気配が濃厚となりました。
劉備孫権はどうやって曹操の脅威を退けるか?

三国志を読み返す 宮城谷昌光・三国志 第5巻の感想 - ぺんちゃん日記

第6巻 諸葛孔明経起つ!

曹操の野望が打ち砕かれた赤壁の戦いが描かれます。
三国志演義の中ではもっともドラマティックに描かれる物語の山場に間違いありません。
張飛が長坂橋の一喝で曹操軍を怯ませたところから始まって、 諸葛亮の10万本の矢、 連環の計、 風向きを変える術、勝利後の関羽の見逃し などなど、 これらをきっかけに三国志に夢中になった方も多いと思います。
そんな大切なエピソードが全てカット。
劉備は付かず離れず周辺をうろついているだけで活躍の描写はありません。
さすがに作者の異例の本文内で弁解。
パティぬきのバーガー食べさせられたような感覚でした。


さて、今作でかっこよく書いてもらえなかった劉備玄徳。
彼はまもなく五十歳を迎え人生の下り坂。
若い頃、故郷で悪さを重ねたので実家の居心地が芳しくないために放浪生活が続きます。
そんな自分の境遇を嘆き、大いに反省した結果、学問に目覚めます。
若い頃にガリ勉をバカにしてきたヤンキーが急に勉強を始めたと想像すると水魚の交わりに現実味を帯びてきます。
先生は20歳年下の諸葛亮孔明
玄徳は諸葛亮の広げる大きな風呂敷に乗って空を飛んでみたいと思いました。
しかしこの風呂敷はちょっと生臭い。
劉備がこれまで生き残れたのは所有欲の無さ。
劉備は捨てることで自分の命を得てきました。
領土を捨て、民を捨て、妻子を捨て、関羽張飛も捨てて逃げたこともあります。
そんなふわふわした生き方を止めて、 諸葛亮の言うとおり積極的に領土を得ていく。
自分を捨てて他人を生かす方向に変わっていかなければならないのです。
劉備の人生は、諸葛亮と出会う前と後で別人のように変わります。

赤壁の戦いのあっさり加減は残念ですが、戦争の勝ち負けよりも、内面的な変化を捉えて咀嚼することに軸足を置いたのだと思います。
三国志作品の多くが諸葛亮の 死で幕を下ろすとこれから考えても、ここからの主人公は劉備ではなく諸葛亮でしょう。


隠れ主人公の諸葛亮孔明は徐州出身。
尊敬する人は郷土の英雄・菅仲というのもうなずけます。
多感な少年期に曹操の徐州虐殺を味わっています。
あの蛮行で諸葛亮は家を失い途方にくれました。
曹操に対する恨みは骨髄。
頭の中は常に曹操を倒す事だけ。
劉備の訪問は渡りに船。
だからといって劉備が信用に足る存在か見極めなければならない。
劉備は名声こそあるものの、無責任に見えます。

劉備と面会した諸葛亮は不思議な感動を覚えます。
劉備は過去の全てを捨てて生きているので失敗も成功もない。
人は未来に向かって進んでいるように見えるが、実は過去を鏡として未来を眺め、 背を未来に向けて進んでいる。
無であり空であるからこそ、劉備の元に集まった人々が実現できる。
諸葛亮は所有欲を見せない空っぽの劉備老荘思想的な可能性を感じました。

私は諸葛亮劉備の解釈に感動を覚えました。
人生との向き合い方を覆されたような衝撃でした。
私は人生を前向きに進むと思い込んでいましたが、常識人の人生の歩み方は後ずさりだったとは !
未来は輝かしいものだと思い込んでいましたが、 眩しすぎて直視できないとは !
薄暗い過去におぼろげに見える自分の影を頼りに、半歩また半歩と地面の感触を確かめながら後退しているとは !
確かに諸葛亮の言う通り人々は、過去の経験を見て、できること・やってきたこととの差分を取って行動を決めているのです。
目もくらむほどの未来に向かってためらわずに走れる人がどれだけいるだろうか。



袁紹に続いて滅亡したのは劉表
劉表は保守的だったため、曹操孫権の草刈場になってしまいました。
言い換えれば安定的で豊かだったと評価することもできます。
その保守性が世代交代を失敗させて敗亡の道を進んでしまいました。


それにしても宮城谷三国志のスーパー解釈はいちいち面白いです。
これまで漠然と自分を納得させていた不可思議な出来事を新しい発見を盛り込みつつ説明つけてくれます。

民たちが劉備を慕って付いて来るところに「そんなことあるか?」と疑いの目を向けていましたが、劉表曹操の徐州虐殺を槍玉に上げて曹操の危険性を国民たちに擦り込んだと解釈すれば納得。

徐庶は玄徳が孔明を可愛がりすぎて入り込む余地がないからついてこなかったという解釈は世知辛い。
年老いた母親の足では逃げきれないし捨ててもいけないと説明されれば納得。

長坂坡を無人の野を行く如く駆け抜けた趙雲子龍
彼の最大の見せ場ですが、子供連れの姿を見た曹操が急にかわいそうになって見逃すように指示した解釈となっています。
道路を横断するカルガモの親子の姿を見守るみたいでほのぼのしてしまいました。

私にとって趙雲子龍は大好きな武将です。
関羽張飛孔明の3人だけがえこひいきされる劉備家の中で 古参と新参を繋ぎ止める潤滑油のような働きをしたの趙雲です。


さて、軍師諸葛亮のプロデュースによって聖人君子のキャラ付けをされた劉備
諸葛亮の指図通りに領土を拡大できるでしょうか。
続きは第7巻で。

この間の大まかな流れ。

曹操袁紹の与党が力を合わせないように兄弟同士で反目させるが、 全滅させるのは容易ではない。
北伐に対して大勢の家臣たちが反対する中で郭嘉だけは賛成。
楽進、李典、曹仁、田疇などの活躍もあって 北伐を終わらせる。

劉備劉表の元に身を寄せるが、名声の高さが災いして飼い殺し。
打開策を求めて諸葛亮孔明三顧の礼で迎え入れる。

孫策の志を継いだ孫権は人を見抜く目と話術で人を動かす力を持っていた。
劉表の軍の中で異物だった無頼漢の甘寧の 投降を受け入れて使いこなし、 ついに赤壁付近で劉表の将軍黄祖を打ち破る。

劉表は高齢を迎えて跡継ぎ問題に悩んでいた。
長男の劉琦よりも弟の劉琮の方を可愛がっていた。
曹操がいよいよ荊州に攻め込んでくる最悪のタイミングで劉表が老衰のために死去。
後を継いだ劉琮は抵抗の気配を見せず降伏。

曹操に降伏したくない劉備は慌てて逃げ出す。
そこに呉の孫権から魯粛が使者として訪れます。
孫権と同盟して曹操と対抗する提案に諸葛亮も賛成。
諸葛亮魯粛に誘われて孫権を説き伏せに行く。
しかし話が成立するよりも早く曹操が一気に押し寄せてくる。
劉備の戦線は決壊寸前だったが、諸葛亮の助言で難を逃れていた劉琦に救われた。


周瑜曹操赤壁の付近でぶつかり合った。
曹操軍は感染症の流行で船を焼いた他、季節外れの向かい風の不意を突かれて燃やされたことなどでほとんどの軍艦を失い戦闘不能に。
弱小とはいえ劉備軍に退路を断たれては危険。
曹操は負けを悟って退却。

悪路に悩まされながらも少数の手勢で江陵に到着。
城を曹仁に任せて撤退する。
北に攻め登ってくる周瑜
孫権率いる本隊は合肥に攻める両面攻撃。

江陵を守る曹仁は粘り強い。
簡単に抜けないと見抜いた周瑜甘寧の提案を受け入れて夷陵を責める。
合肥を攻める孫権も苦戦していた。
赤壁にはやばやと見切りをつけた曹操が援軍に来るとの噂を聞いて撤退を決意。


劉備周瑜と力を合わせて江陵を攻めたが埒が明かない。
痺れを切らした玄徳は孔明の助言で曹操の 指示系統から外れている荊州4郡の説得に回る。
正直玄徳が邪魔だった周瑜はこれを許可する。
劉備は初めて自分の意思で領地を獲得。
少し遅れて曹操の使者が 説諭に回る。