ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

『日本の城・オールカラー徹底図解』

先日紹介した『日本の城・オールカラー徹底図解』
だんめんずのつもりで購入したのに断面図じゃなかったことから日本の城の紹介として不完全だったように思いました。
そこで補足説明的に お城の本として紹介します。

紹介しているのは Kindle 版。
イラストの描き込み密度が高いので200%倍率で表示したい。
大画面を用意しないと苦しいと思う。

この本を紹介する前に今のお城の楽しみ方、楽しまれ方について書いておきたい。

城とは本来戦争の道具である。
平和な日本に城は必要か?と問われると全く答えに窮する。
賛否はあるかもしれないが、今のところ日本のお城は日本全国で地域のランドマークとして機能して生き残っている。
著名なお城ともなると観光スポット化して いるのでお城には興味がなくても訪れたことがある人は少なくないはずだ。
特に天守閣は日本独自のスタイルで発展し、デザインも洗練されていて見ていて飽きない。
日本の名城を紹介する観光ガイドブックも近年は充実している。
しかしこの本は お城を観光資源としない。
本来の意味に立ち返り、実用的な戦争の拠点として紹介している。

もったいぶったが、私なりにこの本を解釈すると、
「築城者がどんな気持ちで大金をかけて作ったか想像して楽しむ素地を作る本」
である。
この本では日本の城のモデルケースが紹介されている。
「そこ」に「それ」が作られた理由はもちろんのこと、目的に応じた防衛プランを紹介している。
防衛力を優先して山に城を作るのか、利便性を取って平地に作るのか。
もし自分がこの地域の殿様だったら、どこにどんな城を築くのか?
この本を読み終わる頃には地図を眺めながら自分の城をできるようになるだろう。

見開き2ページの左側では文章による解説、右側にはオールカラーイラストで当時の様子が描かれる。
イラストはとても細かく、人間たちが生き生きと描かれている。
イラストというのがポイントで、躍動感がある。
我々が見る静かに佇む眠った城ではなく、 築城されたばかりのハツラツとしたお城がそこにある。
資料の少なさもあって再現性は100%ではない。
ただそれを含めても迫力とリアリティのあるイラストになってると思う。





序章では 城とは何か、お城の起源と海外との比較を知ることができた 。
弥生人の環濠集落だって防衛を目的にしているのだから城である。

第1章では 歴史をさかのぼって日本の城の流行り廃りをを知ることができた 。
時代によって戦法が変わるので城のスタイルが変わる。
大規模な土木工事が可能な時代になると 堀と石垣で高さを確保できるので山の高低差を利用せずとも防衛力を高くできるようになった。
戦国末期には武器が弓矢から鉄砲に進化してくると堀の幅が広くなった。
山城、海城、万里の長城のような国境城壁、寺まで防衛施設とみなして特徴とメリット・デメリットが紹介される。


第2章では城の縄張りについて知ることができた 。
城には支配者を守り抜く様々なギミックがある。
わかりやすいのは天守閣、本丸、二の丸のような 曲輪。
石垣に折れ目を作って横から攻撃できる横矢。
わざと平坦な場所を作ってそこに誘い出し集中砲火を浴びせる虎口。
様々な防衛のアイデアが紹介される。

限られた面積にどのカラクリを使うかを設計するのが縄張り。
大きな城ともなると縄張りは城下町の町割りまで考慮することになる。
縄張りが決まったら、土木工事、建築、城下町開発と進めていく。

この章では職人集団が集められて指図を受ける様子が気に入っている。
石垣の巨石を石切場から船で運ぶ姿が重労働で大変そう。
こういうのは頭ではわかっていても実感を伴っていなかった。
大勢で石を担いだり、坂道を引き上げているところがきついだけじゃなく危険だ。
城ってこうやって建つんだな。


第3章では城内の建築物を知ることができた。
城壁のなだらかなカーブがビジュアル目的ではなく、少しでも高く積み上げる ために生まれたものだと知る。
天守閣の内部構造、やぐらや本殿などの使われ方などが中心。
特に天守閣は城の見所なので 丹念にイラストが描かれている。
塀・門・屋根などパーツとして見落としがちな機能も扱われる。

土木工事の様子はイラスト化されることが少ないので貴重ではないか。
板で型を作ってタコで固める版築という技法が見て取れる。


第4章では城の守り方と攻め方を知ることができた 。
城攻めの手順が紹介される。
本陣を構えて付城を築きながら近寄るイラストが臨場感ある。
竹を束ねた盾で飛び道具から身を守りつつ塹壕掘り進め、土手を築いて城壁付近まで迫る。
その間、守り手は援軍を待つ。
援軍が来ると囲みを解いて野戦となる。

その他、秀吉が得意とした兵糧攻めも紹介される。

読み終わって。

戦国ドラマを見ていて雰囲気で流していた疑問がいくつも氷解した。
特に天守閣の必要性。
敵に天守閣まで迫られたら 勝ち目はないのに立てこもる意味があるのか不思議だった。
しかし援軍が到着する前提なら 最後まで抗う意味はあるようだ。
本当に勝ち目が無いのなら抜け道を通って脱出するからだ。

戦争の目的は城を奪うより周辺地域の支配権を得ること。
住民に顔が利く城主及び幹部層が生き残ることが地域の安定に大きく影響すると理解。

五角形の五稜郭をどうやって防衛するのか不思議だったが、横矢と虎口を説明されてなんとなく理解。

全体的に緻密なイラストで図解されているので非常に分かりやすかった。
満足感の高い一冊だった。

前回の記事でも感想は書いているので興味があったらそちらも読まれたし。

yasushiito.hatenablog.com