ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

普段食べている野菜にも毒がある!?『身近にある毒植物たち 知らなかったでは済まされない雑草・野菜・草花の恐るべき仕組み』

美味しい野菜には毒がある。

私たちが日常的に摂取している野菜には 中毒を起こすものが少なくない。
にもかかわらず危険性を意識する機会は少ない。
身近にありすぎて油断しきっているのが現実だ。

植物は常にリスクがある。

適切な調理法を取らなかったり限度を超えた分量を摂取してしまうと健康被害を起こし、入院。最悪の場合は死に至ることもある。

代表的な有毒食物は「じゃがいも」である。
日本で最も病院送りにする能力が高い 植物ランキングの堂々トップである。
本書ではその他にもアスパラガス、インゲン豆、ズッキーニなど毎日の食卓を彩る食べ物の 危険性が紹介されている。

紹介しているのは Kindle 版。


過度に恐れることはない。
農家や八百屋は適切な品種選びと品質管理をしているからだ。
生で食べると中毒を起こすような植物でもレシピ通り作れば必ず加熱工程を経由して解毒するようにできている。
つまり教科書通りに扱えば問題ないのだ。
正しく恐れて正しく活用したい。


危険なのは 知識が無いままの自然採取。
近頃は自然信仰が強い傾向があり「天然は体によい」と信じる人による事故が耐えないと著者は警鐘を鳴らす。
本書はそんな現状を打開すべく 出版したものだ。
初心者にも読みやすくわかりやすく 身近にある毒植物たちを教えてくれる。

1項目2ページ編成で、左のページに解説、右のページに写真が掲載されている。
初心者にも親しみやすいように軽妙な語り口でコンパクトにまとまっていて読みやすい。
読み物として面白いから良い時間つぶしになるだろう。
間違えやすい危険品種の写真も掲載されており図鑑としても楽しめる。
ただし、野外に出て自然の植物を採取するには少し情報が足りない。
我々が普段接している野菜に意外な危険性があることを知る本と位置づけるのが良いだろう。
フィールドワークするならばもう少し詳しい専門書が必要になるのではないか。
解説は おおむね以下の通り。

  • 植物の楽しみ方
  • 中毒症状
  • 過去の事故発生事例
  • 中毒の発生原理
  • 活用事例

序章。

食卓にのぼる野菜の思わぬ落とし穴が紹介される。
インゲン豆がダイエットに有効と情報が出回って健康被害を出した事例など。
料理の自己流アレンジには注意したい。
ズッキーニとかアブラナなどは まれに苦味を感じるものがあり、それは毒のサインなのだそうだ。
年を取ってくると苦味の中に美味みを感じるようになり食べちゃうので危険だと思った。

第一章 致死性の身近な植物。

野生の植物を興味本位で口にする危険性を学べる。
知らないまま口にして命を失うことだけは絶対避けたい。
拾い食いなんてしない!とおっしゃる人も 無縁ではない。
恐ろしいのは「お裾分け」
この本の事例では群生していたドクゼリをわさびと間違えて収穫し、おすそ分けとして配布された事例がある。
幸い死者は出なかったようだが、良かれと思って食べさせた人の後悔たるや、想像しただけでもゾッとする。

シキミの事例も恐ろしい。
自然観察会に出かけたメンバーが集めた木の実のパンケーキを食べて中毒した事例が紹介されている。
リーダーが事前に下見したにも関わらず起きてしまった。
この植物は八角の仲間で食べると香ばしく美味しい。
椎の実と間違えても不思議はない。

被害者になるのは嫌だが、加害者になることもある。

第2章 重大事故を起こす園芸植物。

花壇に植えられた艶やかな植物たち。
目を楽しませてくれるが体が喜ぶとは限らない。
毒を持つ植物はえてして美しい。
要注意植物が観賞用として海外から続々と入ってくる。
もうおじいちゃんおばあちゃんの知識では手に負えない。

観葉植物を食べるなんて常識では考えられないとは思わないでおきたい。
過去の記憶から思い当たる節があった。
例えばアジサイ南天の葉などは料理の飾り付けとして添えられることがある。
もちろんどちらも食べられない。
確かに赤飯の上に南天が乗っているのを見た覚えがある。
明らかに食べられそうにはないが、好き嫌いの多い子に「シェフは食べられないものを皿の上に出さない」なんてお説教を聞くこともある。
そんなハッタリを耳にすると高級料亭で通ぶって食べてしまうのがいやしんぼの悲しい性。

ちょっとびっくりしたのはハチミツによる中毒。
子供の頃に蜜を吸って遊んだツツジの花には毒がある。
少しなら問題ないが、ミツバチが濃縮して蜂蜜にすると健康被害を出すことがある。
日本では事例が少ないが、トルコではよく知られる。
舶来ものをありがたがるだけではなく危険性と使用量を間違えないようにしたい。

http://jsct-web.umin.jp/wp/wp-content/uploads/2017/03/26_4_310.pdfjsct-web.umin.jp

第3章 取扱に注意すべき”普通”の草花。

部屋を彩る生け花、街のムードを盛り上げる街路樹。
私たちの生活に寄り添ってくれる草花にも油断できない。
花に興味のない私ですら香りを楽しんだり突いたりしたことがある身近な花も一筋縄にはいかなくて「お前、毒だったのかよ」と驚かされる。
人々の目と鼻を楽しませるために 長年愛されて品種改良されてきたから歴史書も賑わす。
人を苦しめたことのあれば薬として助けたこともある。
ものによっては薬効の高さで乱獲されて天然物は絶滅することもある。
植物たちは自分の身を守るために毒を蓄えて自衛するのだが、そこに目をつけられるのだから人間の欲望と探究心は植物にとって迷惑でしかないに違いない。
あまり具体例を紹介するとネタバレになってしまうので気になった物を2点だけ紹介する。

端午の節句に菖蒲湯として使われる菖蒲。
別品種のアヤメと間違えられることがある。
誤って口にすると下痢や嘔吐の原因になるようだ。
紛らわしいことに花菖蒲と呼ばれるので 違いに気付かずお裾分けすることがあるらしい。

クリスマスローズは古代の合戦記にも登場する。
城内に立てこもる敵の戦意を削ぐために クリスマスローズの毒を使った。
川の水をせき止めて渇水状態とし、植物の毒を混ぜた水を流したところ、水を求めた城内の兵がガブガブと飲んで腹を下したと記される。

恐れるだけでなく楽しもう。

本書は植物の危険性を伝えると同時に魅力も教えてくれる。
ただ一方的に脅すだけのアンチ本ではない。
花の見所、枝振りの楽しみ方など興味の薄い人にも伝わるような優しい書き方で紹介していた。
もちろん薬草としての有効性の併記される。
著者がいかに植物を愛しているかが伺える。
本書を読んだら、これまで気にもとめなかった鉢植えの花に意識が向くようになった。

こちらは新書(書籍)。