ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

眺めの会・4月下旬『市民ケーン』

まだ見れてない不朽の名作。

GW 映画祭りの期間中に巡ってきた眺めの会。
テーマに沿って不朽の名作と言われつつも今更感ありすぎて見ていない作品を選びます。

今回は『市民ケーン』です。

多くの人が人生のベスト映画の中に含めてくる作品。
タイトルだけは何度も耳にするものの、白黒の古い映画だからどうしても見る気がわかない。
そんなに影響力がある作品ならフォロワーもたくさんいて、知らない間にオマージュ作品を摂取しているに違いありません。
私が今更見たところで目新しさを感じないのではないかと心がブレーキを踏んでいます。
1941年公開ということは戦前の作品ですね。

視聴プラットフォームは Amazon プライムビデオ。
プライム会員特典でプライム会員は無料で視聴できます。
年齢レーティングは16歳以上。
字幕と吹き替えで相当悩みましたが 吹き替え版を選択しました。

市民ケーン

1941年に米国で公開されたドラマ映画。
監督はオーソン・ウェルズ
脚本ハーマン ・J・マンキーウィッツ、 オーソン・ウェルズ
主な出演者はオーソン・ウェルズ、ジョセフ・コットン。
上映時間は119分で言語は英語。
年齢レーティングは PG 16+。

あらすじ。

莫大な富を背景に新聞社の経営者となりメディアを牛耳った新聞王ケーン
火のないところに煙を立てる強引な経営方針で世論を操作し、常に大衆の耳目を集めた。
お騒がせセレブとして誰もが知るケーンはこの世を去る。
彼の死は世間の注目を浴び、 追悼番組の作成が始まる。
ケーンが死の間際に「バラのつぼみ」という謎めいた言葉を残したことに着目した番組作りに決定。
「バラのつぼみ」 の正体を突き止める調査が始まった。

見終わった感想 思いっきりネタバレ。

とにかく引き込まれる。

フィクションではあるが故人の生き様を描いた伝記
この手のお話は一本調子で退屈になりがちだけど、 不思議と物語に引き込まれました。
なぜだかわからないが面白い。
主人公が死ぬところから始まって謎のメッセージを残すのはサスペンスドラマのよう。
謎を解くために過去の回想と現代の往復を繰り返してタイムトラベルしているよう。
観客の好奇心を煽り続けて 飽きさせない。
演出も面白くて 集中力切れそうなところでびっくりさせてくる。
例えば、平凡な回顧録に退屈し始めた頃に VTR がパチーンと止まったり鳥が羽ばたいたりと見ている側を油断させない。
随分挑戦的だと感じたので、これらの演出の中で一つくらいは世界初だったかも?
そして作中の情報密度が高い。
煙に巻かれているような胡散臭さが新劇場版エヴァンゲリオンのようでした。
余韻が深い………のか?
みんなが名作だと言うから何気ないところにも意味を見出そうとしてしまうよ。
なんか騙されている気がするけど。
結末までたどり着いて感動する人がいる一方で怒り出す人もいるんじゃないかな ?
自分なりに結論を下さないとすっきりしないので考察せざるを得ないんだよね。
人間はわからない現象に出会うと何とかして解釈しようとする。
何もない空白をどうやって埋めるかでその人の価値観が浮き出て見える。
感想を発表するのが怖い作品ですね。

ケーンの数奇で破天荒な人生が刺激的。
筋書きは面白いから野次馬根性強い人には楽しめると思います。
降ってわいた僥倖、 妥協なき信念、 恐れ知らずのマネーパワー。
まるでレオナルド・ディカプリオ主演の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を見た時のようでした。
後半になると近しい人との諍いが始まって見ているだけでイライラします。
喧嘩別れ、破滅、孤独、埋まらない渇望感。
何でも思い通りにできると思ったのに本当に欲しいものは手に入らない男は哀れな末路。
「見てごらん、あれが成金の最期だよ」
セレブって極端な人生だから面白いね。

結末の余白を考える。

聞き込み調査の結果「バラのつぼみ」は特別な意味などなかったと結論づけられました。
ケーンは時々突拍子もない事を口走るが、そのうちの一つだろうと言う結果でした。
「バラのつぼみ」は人生のほんの1ピース。
たったそれだけで何を表せるというのか。
そうまとめられて終わります。
そしてケーンが集めた膨大な遺品の中のガラクタが火にくべられます。
その中の一つから「バラのつぼみ」というメッセージが炙り出されました。
それは誰にも気づかれることなく煙に乗って空を登っていくのでした。

真相は全て藪の中。
煙に巻かれてモヤモヤする終わりでした。
煙突の煙で終わるだけに(笑)。

「バラのつぼみ」は本当に意味はない言葉だったのだろうか?
だとしたら浮き上がるあのメッセージは何だったのだろうか ?
実はあのガラクタの中に重大な真実が隠されていたのではないか ?
こんなので済むわけないだろ、真実を教えろ!

人は人生の中で色んな言葉を残す。
意味のある言葉も残すし、 ガラクタも残す。
そして嘘も残す。
自分の人生を自身の口から語ったとしても真実と限らない。
自分で自分に嘘をつくってなんぞ?!
それは往々にしてあるのです。
ケーンは人前で歌うのは嫌だと訴える妻に対して本気で君の為だと言い切っていました。
彼にとっては人の噂なんてどうでもよくて 、そして本気で彼女の歌に惚れこんでいました。
ところが近しい人から見れば そうではありませんでした。
彼は自分のため、端的に言えば成功させて感謝されるためやっていたのです。
言葉とはそんなあやふやなもんです。
ザナドゥーの宮殿に集められた骨董品は彼が残した言葉のメタファーではないかと私は考えます。
人々が価値があると感じた言葉だけが残されて無価値な言葉は燃やされる。
「バラのつぼみ」は彼にとっては真実だったかもしれない。
でも我々にとっては無価値です。
燃やされてもいいんです。
燃やされるべきなんです。
我々にとってはどうでもいいんだから。

そもそも「バラのつぼみ」を追いかけるきっかけになったのが'面白くて売れる番組を作るため'でした。
みんなが知りたいのは真実ではなく謎に満ちた与太話なのですね。
振り返ればケーンの新聞記事執筆テクニックがまさにそれでした。
戦争の気配がないと報告する特派員に対して戦争はこっちで作ると豪語したのを思い出しました。
「バラのつぼみ」の真実は我々の想像力で自由に膨らませることができます。
真実を語る人はこの世にはいないので。
徳川埋蔵金みたいに何年も引っ張れるコンテンツに成長するかもしれない。
あの番組制作はどんな方針で進んだのかな?
「特に深い意味はありませんでした」の結論で編集長は納得してくれたかな?
大衆に受ける番組を作るために「バラのつぼみ」の中に刺激的なスキャンダルをデッチあげたのでしょうか。
大手マスコミやエンタメ業界に近い人は過去の自分の仕事と照らし合わせて後ろめたい気持ちになりそうですね。
そんなところがこの作品の魅力なんだと思います。

さて、そんな謎に満ちたキーワード「バラのつぼみ」
私にとってそれより知りたい謎。
市民ケーン」の「市民」の意味。
この映画のタイトルを初めて知った時から「市民」が印象的でずっと引っかかってたんです。
どんな純朴で哀れな市民が描かれているのか。
軽く30年以上は庶民をイメージしてたのに大富豪じゃん。
確かに政治家の汚職をすっぱ抜いて追い詰めていたし、市民の生活向上を訴えて選挙には出てたけどさ、 それが彼の人生のテーマではなかったよね?
原題を見てもCitiznだったから邦訳がおかしいわけではなさそう。
大富豪だって一人の市民ではあるけれど………?

平凡な一市民でも5000兆円あれば誰でもこうなると言いたいのだろうか。
確かにケーンは純朴な少年だった。
お金よりも大切なものを追いかけていた青年時代だった。
どこで失敗したのか。
いや、そもそも失敗したのか。
凡人はもっと自堕落で愚かだしな。
ケーンの綴りが kane で日本語的にはカネなのも深読みしすぎか。