ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

眺めの会・1月下旬 羅小黒戦記

中華アニメを楽しむ。

前回は台湾の作品から『海角七号』をみたので、今回は中国の作品を選びたいと思います。

近年、中国のカルチャー方面では様々な規制が強化されていて よその国のことながら不安視せざるを得ません。
筆頭にあげられるのがゲーム規制。
ゲームは精神的麻薬と定義され、学生は酒やタバコのようにプレイ時間を厳しく制限されるし、 ゲームメーカーは新作ゲームの発表を許可してもらえません。
すでにゲーム業界で多数の企業が倒産しているとか。
芸能関係の締め付けが強まってきて、 アイドルが十分に活動できなくなっているようです。
映画は今に始まったことではなく、ずっと前から政治と宗教に関する内容はがっちり検閲されていました。
ただ、それら以外にも エンタメ要素の高い 刺激の強い作品は公開の許可が降りないこともあるのだそうです。
どの業界にしても資金を投入して回収する段階に入ってから差し止められると 赤字を出すだけで終わってしまうので 、きわどい表現にはチャレンジできず萎縮せざるを得ないと。
中国のゲームとアニメがすごいすごいと言われ出し、業界の人から白旗がちらちらと上がり始めた成長著しいこの段階でなぜブレーキを踏むのか。
実にもったいない。
ここいらで脂の乗った作品を一発 体験しておくべきタイミングではないでしょうか。

ということで、昨年話題になったアニメ『羅小黒戦記』を選びました。
視聴プラットフォームは Amazon プライムビデオ。
プライム会員向けの有料コンテンツです。
吹き替え版を選択。
と言うか配信には吹き替え版しかないと思います。
東アジア圏の人たちは日本のアニメと声優のことをよくわかっているので声優の起用に間違いはないです。

まだお値段高めな設定なので クリックには気をつけていただきたいです。

羅小黒戦記

2019年に中国で公開された長編アニメーション映画。
2011年から開始された Web アニメの長編映画化。
監督・原作は MTJJ木頭。
脚本は MTJJ 木頭、 彭可欣、風息神泪。
主な声の出演は花澤香菜宮野真守櫻井孝宏
上映時間は101分で言語は中国語(吹き替えは日本語)。
レーティングは全年齢。

あらすじ。

人間の自然開発によって住む場所を奪われた妖精の黒い子猫のシャオヘイ。
頼るものもなく都会で人間から追いかけられているところを、同じ妖精のフーシーに助けられる。
食事と寝床を与えられて安心し、フーシーと彼の仲間たちにすっかり懐いたシャオヘイだったが、彼らをムゲンという強すぎる人間が襲撃する。
ムゲンは人間界の中で執行人と呼ばれ、妖怪たちを捕まえては「館」まで連れ去っていく。
シャオヘイはムゲンにとらわれて館へと運ばれていく。
ムゲンの目的とは?

見終わった感想 まずはネタバレ控えめ。

中国らしさと日本らしさを融合させた傑作。

面白かった。
素晴らしい。
特に終盤の30分が 怒涛の勢いでまくりあげてくる。
アクションシーンのアニメーションの熱量にこちらも熱くなる。
こんなに動いてくれたら大満足だ。
激しいアニメーションなんだけどバキバキの3D CGではなく手書きのセルアニメーションぽいテイストで アニメ世界への没入感を高めてくれている。

もちろん見所はアクションだけではない。
主人公となる黒猫の妖精シャオヘイがとても可愛い。
子供の無邪気さ、そして絶対人間になつかない捨て猫の愛くるしい攻撃性が再現されてる。
小刻みに突っ込まれるお笑いのポイントもいい。
食事のシーンに対するこだわりが『同じアジアの文化圏だなぁ』と安心する。
屏風の中から虎が出てきた時は膝を叩いて喜んだ。
豊かな森と大都会が同じ世界で 両立していて、その二面性が切り替わりながら進むところも日本ぽい。
日本が先とか後とか言いたいのではなく 気持ちよく融合している。

シャオヘイ達は擬人化されているけど妖精。
妖精とは自然の一部に自我が芽生えて人格化したもの。
森の木とか石とかが人間の姿に変化して動き回ることになんら疑問を感じないのが不思議。
日本と中国に共通する概念が見つかって『互いに影響しあっている』と感じた。


作品のテーマは自然と人間の対立と調和。
人間の自然破壊によって住む場所を奪われる猫の妖精のシャオヘイ。
妖精のフーシーと 超人的な能力を持つ人間のムゲン。
シャオヘイはこの二人の争いに巻き込まれる。
サブタイトルの「ぼくが選ぶ未来」から想像つく通り、自然と人間どちらが正しいか見定める話となる。




ネタバレ含めた感想。

この映画の見せ場は終盤のバトルアクション。
その場面については後述するとして、最初に受けた印象から。

だるいと感じた場所もあり。

森の中の美しさと昔ながらの人々の暮らしが懐かしくて愛おしい。
どちらも失われつつあるものとして昭和の終わりから強調されるもの。
どこかで見た景色。
失われつつあるぬくもり。
もう一度取り戻したいあの時間。
フーシーとムゲンの絵柄が日本人には若干懐かしい。
それが タイムスリップ感を加速させます。
90年代のテレビアニメの再放送を見せられたような感覚を起こして意識が遠のきました。
大好物な人がいることは承知だけど劇場版では退屈。
物語がどこに向かうのか方向性が見えない。
特にイカダで海を進む場面では波風立たなさすぎて心が凪。
よく言えば雄大
正直に言えば単調。

上陸してからも二人の旅は続きます。
1時間くらいはまったりモードかな。
これはもう猫の愛らしさを楽しむだけの猫アニメとして評価されているのだと結論付けかけました。

結果的にはこの時間がシャオヘイとムゲンの心のつながりを 深めるので絶対に必要な時間。
終盤の急展開を支えるための静けさでもあります。
テンプレに当てはめるならシャオヘイの能力が開花して成長していく修行パートだと考えればいいのかな。
圧倒的に強いけど底が知れない先生っていいよね。
ムゲンぶっきらぼうでクールに見えるけど意外と天然だし。

退屈とはさすがに言い過ぎた。
鬼滅の刃に代表されるような主人公の内面が過剰な程にセリフで描かれる日本的作風に慣れすぎなのですよ、きっと。

ギャグパートはちゃんと面白いです。
人間たちの自然開発にブツクサ言いながらスマホの便利さは手放せない妖精たちが可愛い。
フーシーの先生が倒されているのを見た小僧が急須を投げ捨てて駆け寄るけれどテンプレ崩しでちゃっかり生きているところも笑い転げました。
初めてのビジネスホテルに興味津々であちこち弄り回した結果風呂で溺れるシャオヘイ には声出して笑いました。

ジャンプ脳全開にして純粋なバトルアクションとして消費したい人だったら旅する場面は飛ばしてもいいかもしれません。
最後の師匠との別れの場面ではキューンとこないと思うけど。


振り返ってみると、筏で過ごした何気ない時間は 良いものだったな。
犬猿の仲ならぬ人猫の仲の二人。
呉越同舟の時間の中、敵だと思っていた相手が意外と悪いやつではないと分かってくる。
やがては立場の違いを乗り越えて行くの。
嫌いな奴は秒速でブロック。
そんなネット社会の住人からしてみれば、一つの理想、桃源郷
セリフが少ないから、アニメーションだけを眺めるの。
日本のアニメは空白をセリフで埋めすぎ。
観客はわかってくれると信じて放置するのが正解。
猫は警戒感を解くまで構わないで放置するのが正解。
気がつけばみんなムゲン様の手のひらの上。

心の変化に驚き。

ムゲンは妖精を捕まえる得体の知れない人間だけど、悪いやつではない。
いいやつだと思っていたフーシーはいいやつでもない。
二人の理想がわかったところで フーシーが迎えに来てくれたんだけど、こういう時どういう顔すればいいのかな?
シャオヘイはやっぱり嬉しかったようだけど、私は既に心が離れていて複雑だった。

これぞ王道摩訶不思議中華バトル。

カメラがグリグリ動く空中戦が見応えあります。
ムゲンが動くたびに衣装の布がバサバサと音を立てて動くのがカンフー映画みたいでかっこいい。
擬人化された妖精たちがユニークで都会のあちこちでガンガン暴れ回ります。
みんなキャラ立っていて掘り下げたくなるけど出番は一瞬。
それぞれ不思議な技を持っているので能力バトルの要素もあります。

封神演義でおなじみ 哪吒が登場した時に、やっとのことで「あーこれは封神演義なんだ」と気づきました。
タイトルに戦記とあるから気づかなかった。
でも演義形式じゃないな。
どの辺が戦記なのかもわからない。

閑話球題。
封神演義西遊記水滸伝に並ぶ中国の古典的作品です。
世界観はとってもファンタジーで、 特殊な修行を受けた人間が仙人になるし、霊力を備えた自然の一部が意識を持って動き出し人間に変化する能力を備えて仙人になる。
しかし仙人の世界の上層部が、才能が中途半端なものを粛清していくちょっと残酷な話です。
かなりマイルドになっているけどよく似た構図ですね。
封神演義が人類が自然を克服する話だとは気づかなかったなあ。


注目の人物。

エンディングテーマを歌っているのは LMYKです。
スケール感のある女性シンガーでプロデュースはジャム&ルイスが行なっています。
宇多田ヒカルって言っちゃダメ。
劇場版のエンディングでこういう曲調だとそっちに寄せられちゃう。
でも強い影響を受けているのは間違いないですね。
英語にもとっても堪能なようで、英語の中にさりげなく日本語を溶け込ませてますね。
これからどんどん活躍しますよ、きっと。