ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

眺めの会・1月中旬 海角七号 君想う、国境の南

中華圏の作品を見てみたい。

今回は海を隔てた隣にある台湾からピックアップ。
韓国映画は定評あるけど、台湾の映画はびっくりするほど知らない。
日本で邦画が冬の実態を迎えていたのと同じように、台湾の映画業界にも試練が訪れていたらしいですよ。
今回選んだ『海角七号』はその壁を打ち破って台湾にふたたび映画ブームを巻き起こした作品だそうです。
それが日本統治時代を経由して 日本人達と絡みながら人間模様を描いていく物語だそうで、日本人にとっても親しみやすい作品になっています。

視聴プラットフォームは Amazon プライムビデオ。
プライム会員特典で無料で視聴できます。

北京語と台湾語を使い分けていることに意味があるそうで、字幕を選びました。
と言うか吹き替え版は存在しないんじゃないかな。
台湾にはローカル言語があるものの、近年では話者が減りつつあるという危機感があるのだそうだ。
結局日本人の私にはどちらがどっちか分からないんだけど。

年齢レーティングは13歳以上。
そんなやばいシーンがあっただろうか?
一瞬だけベッドシーンがあったけどマイルドだったし、ノーヘルバイク運転かもしれない。

海角七号 君想う、国境の南

2008年に台湾で公開されたドラマ映画。
日本では2009年に公開。
低迷を続けていた台湾映画界に旋風を巻き起こした作品として知られる。
監督・脚本はウェイ・ダーション
主な出演者はファン・イーチェン田中千絵
言語は台湾語、中国語、日本語。
上映時間は130分。

あらすじ。

ミュージシャンでの成功を夢見て台北に上京したものの目立った活躍はできずギターを捨ててふるさとの台湾最南端の町恒春に戻った青年アガ。
当然仕事にも身が入らず、郵便配達の仕事もおざなりだった。
そんな彼の手元に宛先不明の小包が届けられた。
海角七号
現存しない住所に差し出された謎の手紙を持て余すアガ。
そんな彼に一つのチャンスが。
日本から来る人気ミュージシャン・中孝介のイベントの前座を演奏するバンドメンバーを探すためのオーディションが開催されたのだ。
招集されたメンバーは女子小学生からおじいさんまで含まれる前途多難な顔ぶれだった。

注目の人。

中孝介。
奄美大島出身の歌手。
島唄を中心に活動する。
2006年に台湾で大ヒット。
作中では「あの中孝介」として本人が登場。
『それぞれに』が挿入される。

ベスト盤はディスク2枚組。


見終わった感想。

失った夢を取り戻す爽やかな青春ドラマ。

よかった。
夏の海の解放感。
若者たちの肌の露出も解放されます。
台湾のちょっと蒸し暑い夏の夜のステージで テンションぶち上がり。
ライブで演奏された3曲は最高に盛り上がりました。
喜怒哀楽のバランス良い配合が 大きな山を作ってくれました。
コメディ要素だってしっかり笑えます。
「私は人間国宝だ」と豪語するおじいちゃんの絶妙のポンコツ具合が最高。

筋書きはとてもシンプル。
夢破れたバンドマンがギターを捨てて故郷に帰って悶々とするが、政治家のメンツで即席で結成されたバンドで 音楽を再開。
イベントの前座を成功させるために奮闘する。
諦めた夢を取り戻す青春再チャレンジストーリーです。

そこに絡むのが日本からやってきたモデル志望の友子。
目標に必死に食らいつきますが、結果は伴わずに通訳の仕事を押し付けられます。
バンドのマネージャーまで押し付けられて フラストレーションをためています。
バンドのギター兼ヴォーカルに抜擢されたアガとの出会いは最悪に近い。
個性豊かなバンドメンバーをまとめ上げるのに一苦労。
職業、性別、生い立ち、 演奏スキル、そしてバンドを始めた動機までバラバラのユニットは常に空中分解寸前です。

バンド活動の近くにいた人なら一度は見たことあるであろうベタな展開を包み込むようにひとつの小包が登場します。

それは60年以上前に書かれた恋人を想う情熱的な手紙。
日本人の男性教師と台湾人の女学生が 熱い恋に落ちるも、戦争が終わり日本が敗戦国となったことで男性が強制帰国。
台湾に残した彼女に宛てた切ない心情を書き綴った当時の手紙が60年の時を超えて送られてきたのです。
この時空を超えた不思議な手紙の謎が物語の進行とともに解き明かされていきます。

ここからはネタバレ含む感想。

70年前のピュアな恋心が圧倒的なポエム。
当時の情景がありありとノスタルジックに描かれていて、心を鷲掴みにします。
この手紙のスケール感で 俗っぽくなりがちな若者たちのひと夏の音楽サクセスストーリーに奥行きを作っていました。
「音楽活動あるある」のベタな展開だけでも当然面白くみんな大好きなのですが、 60年前から変わらない愛に包まれたんじゃかなわない。
ロックバンドに偏見を持っている人だって最後には優しい気持ちになれるはずです。

魅力あふれる南の果ての海。

台湾はバイタリティに溢れていますね。
ちょっとだらしなくて乱暴で、それゆえに様々な衝突があって、それでも言い争ってなんとなくいいところに収まって。
現地の人が見れば、そんなの田舎でだって絶滅したような共同体社会なのかもしれない。
だけど故郷を思わせるあったかさは 未だ我々の心に生きています。
現地の人たちが北京語ではなく台湾語で喋るところとか、 海のアピールを絡めて地域おこしとか、日本で言うならあまちゃんのようなテイストを思わせました。
あまちゃん見たことないけどね。
やさぐれた青年と海と女のまっすぐな姿を見て、ビーチボーイズの再放送をうっかり見てしまったようなこっ恥ずかしい気持ちに襲われました。
これも両者に共通点があるわけではなく、友子の肌の露出感が稲森いずみっぽくて私のストライクだっただけのことですが。

友子を演じるのは田中千絵
東京出身の女優ですが、 作中の友子と同じように大きな成功を目指して単身で台湾にうつり中国語覚えて頑張っていた苦労人。
作中の友子の役柄と経歴がシンクロする人を発掘してきたのすごい。

友子は日本人離れした歯に衣着せぬ物言いができるゴリラメンタルな女。
70年前に恋人を涙で見送った友子とは正反対の性格。
あの時の仕返しとばかりに日本から海を越えて台湾にきます。
メソメソと逃げ帰った70年前の男とは違い、 仕事と男をひっつかんで日本に帰国していったのが爽快感。

世間がどう見ようと俺たちの祭。

バンドメンバーが続々と集まってくるのも気持ちよかった。
仲間集めってワクワクするよね。
老若男女バックボーンが全く違う、普通の日常を送っていたら一生交わることはなかったであろう各メンバーたちの人生。
そんなバラバラの物語が一つの目標に向かって徐々にぶつかり合って行くのは青春そのもの。
最後に一番遠くにいた友子がアガと合流した時は頭の中でパチーンと音がしました。
出来上がったユニットは 空中分解どころか飛ぶことすらできなさそうだけどね。

限られた時間をやりくりして 練習するんだけど、ライブ直前まではっきりした答えが見つかりません。
特に2曲目のオリジナル曲が問題。
肝心な時に曲をかけるアガは例の荷物の配達で不在です。
ライブにはぎりぎり間に合ったものの打ち合わせの時間なし。
その大ピンチを愛の告白で決めた後はアドリブ演奏。
すごくハラハラした。
滑ったら終わりのやつなので素人は絶対真似しないようにね。
予定にないアンコール曲の NG がかかりそうの場面で、中孝介の「この曲なら僕も歌える」と飛び入り参加で対応する盛り上げが素敵でした。
このアンコールの3曲めの曲、日本統治時代に伝えられた曲で、 終戦後に日本文化が否定される中で生き残った数少ない日本の歌。
日台の架け橋的な曲なので中孝介は知っていた様子。
もちろんメインイベントとなるべき中孝介の楽曲も演奏されます。
ただし映画の筋書きの都合で 前日の予行演習の一つとして挿入されます。
世間的には前座でも俺達が主役の祭りだという気持ちで臨んでるんだから仕方ない。

引っかかるところもあり。

ちょっと気になったのが物語前半の小包の扱われ方。
作品紹介が小包にフォーカスされていたから そこに注目できたけど、事前知識ゼロで見ていたら取りこぼしていました。
それと、友子さんの居場所が判明するきっかけも唐突で驚きました。
後からとってつけたようでギャップを感じましたね。
廃止された郵便番号に届けるというミステリアスな目標に前半からもっと真剣に着手しなかったのがもったいない。
謎解き要素織り交ぜながら、バンド活動と並行しつつ、失敗を克服した末に友子さんの手に届いた方が感動がより大きかったのではないかと思いました。
ぶっちゃけ小包の存在がなくても物語は成立するよね?
仮に小包が未配達のまま進んだとしてもイベントは成功してハッピーエンドで終われたはず。
手紙を届けたことで人間的な成長があって曲が完成したとか、 曲作りのヒントがもらえたとか、運命的なギブアンドテイクがあってもよかったのではないか。
もしかしてちゃんと説明されているのに自分が取りこぼしたのでしょうか?

もう一度見る機会があれば意識しておきます。


最後にいちゃもんつけて終わったので座り心地悪いけど、すっごい爽やかな気分で思われる映画でしたよ。