ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

眺めの会(定期映画鑑賞会 )5月下旬 股旅

時代劇成分が足りない。

GW も終わって毎日映画を鑑賞するという無謀なチャレンジが終わりました。
今年の GW もたくさん見ました。
昨年の GW には時代劇を複数チョイスしましたが、今年はゼロでした。
男はつらいよ』は時代劇じゃないしなー。
先月300スリーハンドレッドを見たのですが、あれは西洋だし。
ということでプライムビデオから適当な時代劇をチョイス。
幕末や明治よりも江戸時代の方が好き、そして純粋なエンタメよりはよくわかんないタイトルを選んでみたいということで、今回は市川崑監督の「股旅」にしました。

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股旅

股旅

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video

股旅。

1973年に公開された日本の時代劇映画。
監督は市川崑
脚本は市川崑谷川俊太郎
主な出演は萩原健一小倉一郎、尾藤イサオ
言語は日本語で上映時間は95分。

あらすじ。

百姓の生活に嫌気をさした3人の若者が、戸籍を捨て渡世人となり 有名な親分の下で名を挙げようと 無計画の旅をする。
物事は思ったように進まず、歯車を噛み合わないまま徐々に転落していく。

見終わった感想 もちろんネタバレあり。

愚かでもいいじゃない にんげんだもの

血が沸き立つようなアップテンポの太鼓の伴奏から始まるもんだからテンション上がってるのに、渡世人の面倒くさい挨拶がリアルに始まって、サウナの後の水風呂のような目になりました。
ヤクザものが「おひけえなすって」と仁義を切る場面は他の時代劇でも目にしますが、ノーカットだとあんなに面倒くさいものだとは………あれを覚える役者さんも大変だったでしょう。
渡世人もアホでは務まり ませんわ。
このめんどくさい口上を通過できない人は、この先見たところで楽しめないと思いますよ。
本当に難しいところはナレーションが入りますけど、 ハイコンテクストだと思います。
この映画が製作されたのは1973年。
当時はまだ清水次郎長森の石松の講談、木枯らし紋次郎ドラマなどといった渡世人の物語が人気で、当然の観客たちその筋の世界に一定の理解があったと考えると、我々が感じる面白さとはまた違った受け取り方をしていたかもしれません。
みんなが大好きな渡世人の世界をさらに深掘りした作品となれば、我々が冷水と感じる仁義を切る場面も興奮の一部だったかもしれません。
そういう意味では時代性を考慮した教養が求められる映画なのかもしれません。
まあ何の予備知識もなしにこの作品に手を出すなんて当時を知る人が聞いたら、シリーズものの3作目から見るような愚かな行為だと笑うことでしょう。

さて、この作品の感想を一言で表すなら。

救いがないほどの愚かさが人間くさくてゾッとする。

こんなに純真無垢な無鉄砲、久しぶりに見た。
今時の物語って、みんな考えがあって目的があってその先に結果があるじゃないですか。
そしてその考えがある程度の納得感を及ぼしてくれることも期待してるじゃないですか。
普段甘やかされぱなしだから、自分の思い通りにならないストーリーに対するストレス半端ない。
頑張って考えた目標がそれで、その結果がこれかよ………と思うと、見終わった後に虚無感しかない。
愚かで中途半端で無責任で無鉄砲。
若者らしい青臭さを抱えながら理不尽な 世の中を懸命に生きるが、最後まで誰の役にも立たず、何の意味もない形で人生に、あるいは青春2幕を閉じる。
ヤクザの世界に憧れを持ちつつも、どこかお人好しで悪人になりきれずふわふわしているところがもどかしい。
やることがいちいち中途半端なのな。
家を捨てたはずなのに 帰ってきて、家族が離散してしまっていることを知ったり、 女と駆け落ちしたはずなのに女郎屋に売り飛ばしたり、 一宿一飯の義理を果たすために父親を切るのをためらうし 、諍いで斬りつける時も浅くて致命傷を与えられないし、何もかも中途半端で責任を果たしていない。
未熟だなぁと思いつつも、じゃあ大人達がちゃんと責任を果たしているかと言うとそうでもなく、むしろ大人の方が身勝手だったり。
蒸発した父親が他の女とよろしくやっているだけでもアウトなのに、息子との再会の場面でも悪びれもしないどころか、同じように失踪した息子のことを咎めるクズさ加減。
組の親分も一宿一飯の義理を過剰にアピールして親殺しを強要しながら、体裁が悪くなると態度を変化させて、杯を交わしたわけじゃないと追い出してしまう。
もうみんな中途半端でだらしなくて身勝手なのだけどそれもまた人間臭いな。
そんな汚い世の中は監督は美しく描くのな。
三度笠は破れはて、道中合羽はつぎはぎだらけ、この残念な一行が旅する姿をカメラがズーっと引いて、遠景で雪をかぶった山々がうつる 場面がとっても美しい。
青い空に青い山、 ハッとさせられる光景なのに、手前はススキ野原で、その間を乞食のような集団が通り抜けていく美しさと現実のギャップが残酷なほどに綺麗なの。
そうだよ、リアルな現実はいつも過酷だよ。
「あてどもない」とは言いますが、本当に行く当てのない寒さとひもじさが身に染みてくる。
ちょっとだけ救いなのは、3人があの青空のようにカラッとしているところ。
傍観者の我々からは目を覆いたくなる境遇であるものの、彼らにとっては自らの意志で選んだ自由です。
自由とは愚かさを許すことなのかなあ。