ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

ステイホームはつらいよ ラストスパート9本目 男はつらいよ・知床慕情

兄から『八甲田山』を勧められたのですがプライムビデオのラインナップには入っていませんでした。
そこで正月の眺めの会でみた『男はつらいよ』シリーズ、最低でももう一作は見なければならんと考えていたところから、もう一作、『知床慕情』です。
ギリギリ昭和の頃。
自分は中学生だったので、世間の風景や時事問題の記憶がある時代ということでピックアップ。
名古屋が舞台の作品があれば間違いなく選んだんだけど、見当たらなかったので、マドンナが名古屋出身の竹下景子だという苦しい言い訳で選びました。


正月に見た寅次郎夕焼けこやけは17作目であったことに対し、今回は38作目で20年飛びます。
昭和末期ということで寅さんにとっては息苦しい世の中になってきたのでしょうか、それとも歳のせいか、以前のような疾走感は失われていました。
もっと破天荒で江戸っ子らしい威勢のいいところを見たかった。
そのぶん時間をかけて丁寧に描いているので、しっとりとした大人の味わいでした。

今回はゲストの三船敏郎淡路恵子が共演。
寅さんよりも、この大物俳優たちの恋の行方を見守るほうに重点が置かれています。
寅さん直撃世代も年を重ねて初老に手が届き、マドンナへのときめきよりも熟年カップルの方に感情移入するようになってしまったのでしょうか。
竹下景子、ショートカットが似合って透明感のある素敵な役柄でしたが、 大物俳優に囲まれすぎてマドンナの座が危うかった模様。
自然な演技ができてしまうがために、お人形さんポジションでした。
三船敏郎はやっぱりすごかった。
ぶっきらぼうで台詞が少ない男だったけど、たった一言で決める力がありました。
告白のところ、酒に手をつけ掛けたところで思いとどまって、酒の力に頼らずに言って見せたところが良かったですね。

寅さんは主役というよりホスト役。
不思議な魅力でギスギスした関係の潤滑油となっていました。
いろんな人が「寅さんがいてくれてよかった」というのも頷けます。
これが実家に戻ると、なんであんなにダメなんでしょう?
下町人情に通じた人でありながら、下町の密度の高い閉塞感に耐えられないのか口は災いの元で トラブルの種になってしまう。
まるで酸欠の金魚のように口をパクパクして息苦しそう。
それに対して北海道の雄大な自然は寅さんととてもよく合う。
寅さんが北海道で生まれていたら、きっとすくすくと育ったと思うと胸がキュッとなります。
店番の仕事に耐えられそうにない寅さんを見て、さくらがそろそろ自由にしてやれと言ったのは 本質を捉えていると思いました。


昔の映画を見る楽しみの一つ、懐かしき80年代を思い出す楽しさを期待していましたが、それほど時代性を表す場面はありませんでした。
昔ながらの農業と酪農が通じなくなって現代的になりつつ、それでいて経営が苦しい北海道の惨状とか、炭鉱の閉鎖、やってきた不況など、北海道出身なら 身にしみるのかもしれません。
北海道での暮らしの理想と現実、農業の先細り感が切実に訴えられています………が少々説教くさい。
時々こうやって社会問題に切り込んでくるんですよね。
医者が患者の家族からの付け届けを頑として受け取らなくなったのはこの頃からだったから作品に入れ込んだのでしょうか。
さくらと博が病院のスタッフの数を把握していないのも当然だし、相部屋の人たちに配っても喜ばれなくなったのもこの時代。
入院で暇を持て余している親父さんのために、みつおが良かれと思って電子ゲームを渡すけど、全く理解されないのもこの時代ならでは。
ファミコンが大ブームで、飽きていらなくなったゲームを押入れから引っ張り出してきたのだと想像すると実感ありすぎて笑ってしまいます。
長良川の祭りで少年がかぶっていた帽子が星野政権時代のdragonsのデザインだったことが「案外古くない」 と感じたのは 「そこかよ」なところ。
観光産業の街にシフトしていくために環境破壊に警鐘を鳴らし始めたのは、時代の先駆けだったかもしれないね。

原っぱで BBQ とかバードウォッチングとかカムイワッカの滝を眺めたりとか、バイクでツーリングする人たちなどなど北海道の魅力がたっぷり詰まっていて、北海道に行きたい気分が高まります。
と言いたいところですが、さすがにこれは近年の高画質高音質の映像に慣れてしまった私達には残念感溢れてしまう。
映画のスタッフ達は北海道でロケして美味しいものを食べたかったんだろうなぁとか邪推しか生まれません。
映画を撮影して町おこし、というビジネスモデルが完成した時代だったかな。
本シリーズでも北海道ロケの作品がやたら多い。
北の国から』など、北海道大ブームで、テレビ関係ではそうやってお金を循環させることができてた時代とも言えますね。
今時では大物俳優を北海道に拘束して撮影するのはなかなか大変でしょうからね。
お金は呼び込めるけど、地元からは「この街の魅力のあれとこれとそれをアピールして」と要求されるので、ちょっと都合良く話が運びすぎたり、テンポが悪い所も出ているように思いました。
知床旅情が悪いとは言わないけど。

他に BBQ が焦げすぎとか、バナナは柔らかく熟しすぎて好みじゃないとか、夕食はいいもの食ってるなとか、 お前明らかに飲酒運転やろとか、どうもケチしかつけてない。
一体お前は映画の何を見ているんだ?