ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

ステイホーム延長戦 映画を見たよ - 殿、利息でござる!

今年の GW って何時までなの?
世間では6日で終わり派と10日まで派があるようだけど、私は後者です。
だってステーホームなんですから。

今回は Amazon プライムビデオからのおすすめで「殿、利息でござる!」にしました。
一応このブログのテーマは食と歴史なので、歴史物は入っておくべきかなと判断です。
比較的新しい作品なので、コメディといえども一定のリアリティーはあると期待します。
もちろん Amazon プライムビデオで鑑賞します。


殿、利息でござる!

殿、利息でござる!

  • 発売日: 2016/10/05
  • メディア: Prime Video


殿、利息でござる!

2016年に日本で公開された映画です。
監督は中村義洋、脚本は中村義洋・ 鈴木謙一。
原作は磯田道史の書籍「無私の日本人」から。
主なキャストは阿部サダヲ瑛太妻夫木聡
上映時間は129分。

あらすじ。

仙台藩の宿場町吉岡宿は 厳しい力役(政府の指示による肉体労働手の税)にあえいでいた。
本業に身を入れることもできず、百姓たちはじり貧で夜逃げ離散が後を絶たなかった。
そこで町を救うために十三郎と篤平治が出した解決策は百姓が金を出し合って侍に金を貸し付けて金利をとるという前代未聞の荒業であった。
しくじれば打ち首と言う危険な計画であったが、街の未来のためにという気持ちが通じるものが少しずつ現れ出てくる。
目標金額は千両。
現在の価値に換算するとおよそ3億円という大金を、貧困の町は作ることができるのか?

見終わった感想。

近年では時代劇を見る機会が少なくなりました。
歴史に興味があって子供の頃に時代劇に親しんだ私でも、日常的には時代劇を消費しません。
周囲の人に話をしても、昔話はよくわからんとつれない返事ばかりなので業界全体を見ても苦戦しているのだと思います。
時代劇と言えば義理人情の物語がメインだと思いますが、この価値観が我々世代にはわかりづらい。
どうしても登場人物に感情移入できないところが弱点なのかなあと思います。
そんな中で、我々との生活に共通点がある「お金」に関するテーマで描いた時代劇を見かけるようになりました。
お金という視点を切り口にした「決算!忠臣蔵」なんてのもありましたね。

決算!忠臣蔵

決算!忠臣蔵

  • 発売日: 2020/05/02
  • メディア: Prime Video


この映画も江戸時代のお金にまつわるストーリーです。
タイトルから受けた最初の印象は、百姓が殿様に迫って金を取り立てるスカッとジャパンな痛快コメディだと思いました。
ところがオープニングで明かされるとおり実話です。
磯田道史 の著書 「無私の日本人」に収録されている 「穀田屋十三郎」を基に脚本脚色して作成されています。
(Amazon での取り扱いは Kindle 版となっているようです。)

無私の日本人 (文春文庫)

無私の日本人 (文春文庫)

映画ですからドラマティックに脚色されているのでしょうが、歴史研究家が入っているとなれば信憑性もありそう。
ただのおちゃらけコメディではなさそうです。
ちなみに原作本を執筆する際に参照したのは、寺の住職によって記された 「国恩記」。
Wikipedia には、この話が小説化されるきっかけから映画化されるまでの経緯が詳しく記載されています。
それもなかなかドラマチックな展開だったようです。

磯田道史さんといえば、武士の家計簿の原作者でもあり、 nhk大河ドラマでも歴史考証を監修していますね。

武士の家計簿

武士の家計簿

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video

(こちらは Amazon でも新書を取り扱っているようです。)

ja.wikipedia.org



ここからは本格的に話の感想を。
歴史ものなので完全ネタバレを気にせずに進みたいと思います。
さて、この物語ですが、18世紀頃の仙台が舞台となっております。
時期的には田沼意次の時代、徳川吉宗のちょっと後のことですね。
仙台藩主が薩摩との見栄の張り合いで京都の朝廷に対する付け届けで競い合って多額の資金を浪費していました。
村は農地が少なく特産物もなく宿場町と言いながらも使いにくくて旅行者も迂回して通るようになってしまい、まさにジリ貧でした。
それに加えて藩主からは荷物の運搬の仕事を税として分担させられていました。
この負担は大変なもので、そちらに時間と体力を奪われて本来の自分たちの家業に勤しむ余裕すら失われていたという背景です。

そこで吉岡宿の人たちが考えた起死回生の策は「皆で金を出し合って作った資産を運用して金利不労所得を得る」ことでした。
当時の相場では年利が1割。
千両を集めれば、1年間で金利だけで100両。
一両の価値は同じ江戸時代でも時期によって相当変化が大きいものの、現代の価値に換算しておよそ3億円、利息が3000万円。
それだけあれば荷物の運搬作業に従事した者に対して、運用益から賃金を払うことができるという算段です。
資金を調達できれば、の話ですが。

貧乏人が資産運用で暮らすなんて夢物語です。
誰もが一度は思いつくけど、それはただの願望。
ほとんどの場合は居酒屋での与太話で終わっていくことです。
だってお金集まらないんだもん。
ところがこの映画では違う。
ただの思いつきなのに、それを実現できる、いや実現させなきゃならないと本気で思い込んだ人が出た。
夢の話に乗っかる人物が現れたのです。
そこまでの過程が熱い。
十三郎、篤平治、遠藤幾右衛門、千坂仲内と次第に実力のある同士が集まってきます。
世間ではファーストペンギンと呼ばれる一番乗りの人がもてはやされます。
確かに一人目が現れなければ二人目は出ない。
しかし、追随者がいなければ、所詮は一人の物好きが踊り狂っているだけで終わってしまいます。
ファーストペンギンだって二匹目が飛び込まなければ生贄にされて終わりです。
ムーブメントを巻き起こすには最低でも3人は必要。
酒の席でのホラ話が次第に実現性を帯びながら人々の気持ちが揺れ動いていた人間ドラマはとても感動的でした。
同志達の誰か一人でも危機感が欠けていれば話は潰えたでしょう。
綱渡りを繰り返しながら、彼らはやっとの思いで資金集めを達成します。

ここからの第二のハードルでまたきつい。
金利を生み出すには借り手がいなければ始まりません。
仙台藩はお金集めに苦心しているとの噂を聞きつけたので、金があれば必ず借りるだろうという目論見だったのですが、仙台藩の財務担当・萱場杢という男がとんでもない食わせ物。
百姓から金を集めたいなら増税すれば良いだけなのに、利息を払って借金するなんて愚の骨頂だとあっさり見透かされます。
そりゃそうだ。
法律を作って執行するのは藩の官僚たちなんだから、百姓のコントロールなんて雑作もないことですから。
通常のコメディドラマなら強欲なだけで威張ってばかりの侍たちが百姓達の罠にまんまとかかって半泣きになるところを見せてくれるはずですが、この映画は史実を元にしていますからね。
タイトルを見てこの展開を期待した人達にとってはがっかりかもしれませんが、私にとってはそれは面白くない。
この展開で私は俄然本気になりました。
ところで百姓等の申し出を却下するための表向きの理由とされた「徳取勝手」の意味がよくわからなかったのですか、 どういったニュアンスだったんでしょうね。
吉岡宿からの嘆願も侍のご機嫌を損なわないような持って回ったお願いだったからドラマ内の台詞だけでは理解が追いつきませんでした。
この辺原作を読めばもう少し突っ込んだことがわかるんでしょうかね?
百姓からのお願いが「俺たち頑張ってお金を集めたから、あなた達が運用して出した利益で我々の手伝いしごとに報酬を出してほしい」という意味で、それに対して「人に金を押し付けておいて儲かった時だけ取り分をよこせとは都合が良すぎるだろ」ということだったのかなと推察しました。
やっとの思いで集めた資金と打ち首覚悟で出した嘆願を却下されて万事休すかと思われましたが、親の代から数十年かけて貯めたお金だと分かったことで窮地を脱します。
嘆願は無事受理され、数十年にわたって人足の手当てが支払われました。
「殿、利息でござる!」というタイトルは、利息を支払えというよりも、利息を上手に使ってくださいというお願いだったようですね。

めでたしめでたし。



当時としては美談なんでしょうけど、現代的な価値観としては美談にしちゃいけない話じゃないですかね。
こんなんで感動させられてたら政治が何のためにあるのかわかんなくなっちゃう。
政治が何もしないから庶民が耐えかねて知恵と財力を絞って差し出す話に感動しちゃいかんでしょ。
しかも、民にはただ働きさせて搾り取る。
作中で萱場杢がこう言います。
「溺れる者は藁をも掴むというが、藁をつかませるには溺れさせねば成らぬ」
つまり、重税で責めあげれば 民は自分たちから金を集めて差し出してくる。
萱場杢の実行した増税緊縮政策は正しかったということになります。

非正規採用のワーキングプアに失業をチラつかせてサービス残業を強要する話が美談でしょうか?
ボーナスを返上して会社の設備投資に回すことが褒められることでしょうか。
ダブルワークしても貯金がたまらず、忙しくて出会いもなく、結婚もできないから人口も減って経済がしぼんでいく。
新型コロナウイルスによる経済対策の現金給付10万円を県の職員に対して県の財政に活用しようとする 話もごく最近に聞きました。
郷土を愛して子供たちの未来のために頑張る姿は美しいのではありますが、美しいからこそ要注意です。
仙台藩が急遽決定を覆して願いを聞き届けたのも、この美談が政治的に利用できると判断したからではないでしょうか?
みんなでお金を出し合って大きなことをするのは政治的に正しいのですが、 「誰が、何のために」を考えたものでなければ政治とは言えません。
なんだろうなあ、このやりきれない感は。
せっかく集めたお金も仙台藩は京都の貴族のご機嫌をとることに使ってしまって将来性に全く期待感を持てないことが見えているからでしょうか。
貸せば利息がつくといっても、借り手が返済できる見込みがあってこそ。
運用に失敗すれば踏み倒される恐れもあります。
資金の投資先が仙台藩ひとつしか選べないことが彼らの不幸ですよね。
お金は貸して終わり、借りて終わりではなくて、その先が大切。
どのように使うか考えてなければ無駄金になってしまうと思うのです。
せめて産業振興・交通インフラへの投資だったらなあ。
現代とは社会制度が違いすぎて単純には言い切れませんが。
時代劇で現代社会を風刺するのは難しいですね。
あくまで封建制時代の話ですから、当時の人々から現代の我々に対して、価値観を超えたメッセージを送ってしまうと違和感が出ます。
私がギョッとした 、 唯一現代的だったな思えるセリフが、 篤平治が大肝入の千坂仲内に放った「あなたはどちらを見て働いているんだ?」といった感じの言葉だったかなと思います。
上から下が当たり前の社会で、下を向くのが当然だと言うのですから。
大逆転のきっかけを起こした言葉だけに強く印象に残りました。
政治家には政治家の言い分がありますから、どちらが正しいとは言い切れませんが、最終決定は血の通った判断をしてほしいものですね。


まとめ。

いろいろ考えさせられる作品だけあって考えがまとまらずにとっちらかってしまいました。
一言で表すなら、気持ちよく予想を裏切ってくれました。
ビデオのジャケットとタイトルを見た時点では、抱腹絶倒のドタバタコメディだとイメージしていたのですが、リアリティのある骨太な映画でございました。
含蓄があるだけでなく情緒豊かな物語だったので歴史に興味がなくても楽しめると思います。