ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

眺めの会 (定期映画鑑賞会)7月上旬 ミッドサマー

コロナで夏至になってた。

PC の復旧作業が遅々として進まず、あっという間に眺めの会がやってきました。
パラサイト半地下の家族に続いて、コロナ前に話題になっていたミッドサマーの配信が始まっていることに気付いたのですが、すごく怖くてグロいという評判を聞いていたので悩みます。
確か話題になっていたにも関わらず、コロナウイルスの影響で中途半端な時期に上映自粛の流れになってしまったんですよね。
開催の目処が立たないままミッドサマー、夏至の時期がやってきました。
それにしてももう配信が始まるんだ。
最近の配信までの期間って本当短いんだな。
まあ確かに映画のタイトルを考えれば今の時期に見るべき作品で、むしろ真冬に公開されて見たことが不思議思えてきました。
この作品はやはり夏に見るべきだなと思い至って 配信ページを開いてみると、他の作品よりも料金が高いな………?と気づきました。
これは応援上映的なもの?
それともビデオ配信が始まる時期に合わせてスケジュールしてた?
調べてみると1ヶ月間限定で特別先行配信のようですね。
応援のつもりも兼ねて、イベントに乗っかりましょうか。

ということで今回は ミッドサマーです。
配信プラットフォームは Google Play を選びました。
時々違う配信プラットフォームを試したいので。
特別配信のようなので配信時期と料金にはご注意ください。
映像は HD 版で字幕版。
レーティングは15歳以上です。
どぎついエロとグロがあるのでくれぐれもご注意を。


play.google.com


いつも通りのアマゾンプライムビデオならこちら。

ミッドサマー(字幕版)

ミッドサマー(字幕版)

  • メディア: Prime Video

ミッドサマー。

「ミッドサマー」は USA とスウェーデン合作のホラー映画で公開は2019年。
監督・脚本はアリ・アスター
主演はフローレンス・ビュー、ジャック・レイナー。
上映時間は劇場版が148分、ディレクターズカット版が171分。
年齢制限は15歳以上。
言語は英語とスウェーデン語。

あらすじ。

八方美人で自分らしい自分が存在しない女子大生のダニー。
心の弱い彼女は同じ大学に通う恋人のクリスチャンに依存気味で、彼の重荷になっている。
ダニーの妹と両親がなくなる事件が起きたことで、さらに難しい関係となる。
そんな時クリスチャンとその仲間たちが論文を書くためにスウェーデンに旅行に 行くと知ったダニーは同行することを決意する。
訪れるスウェーデンのホルガ村は人里から閉ざされた秘境で、 独自の宗教を信じて暮らす人達だった。
深い緑に囲まれて美しい花が咲き乱れるホルガ村。
そんなホルガ村で白夜を迎える夏至の時期、90年に一度開かれる。
その神秘的な儀式を共に体験するために訪れた彼らだったが、その内容は想像を絶するものだった。



映画を観た感想。

食物連鎖の頂点たる人類が隠し持つ残虐性を白日のもとにさらけ出してくれました。
人間の天敵は人間。
弱肉強食は不公平だから自然淘汰を制度化して人為的に起こして生き延びようという発想。
同じ人間としては決して分かり合えないような倫理観からくる恐ろしさ。
その一方で、現代文明が構成する社会も違う意味で残虐です。
戦争、内戦、抗争、経済的困窮。
ホルガ村とはルールが違うだけで、人間が人間を殺していることに変わりはありません。
文明と原始、両極端な二元論でどちらのサイドにつくか迫ってくる 作品だと感じました。
ホルガ村が謎に包まれているだけに、分からないところがたくさんあって語りたくなることは間違いない作品です。
グロシーンに耐性がない方は避けられた方がよろしいかと思います。

ここから先はネタバレ込みですので、ご了承願います。

ホラー映画……?

いわゆるゾンビ映画やパニック映画的な作品のつもりで見てしまうと、裏切られた感に満ち溢れると思います。
恐怖を克服するカタルシスがない。
死を回避した後の安心感がない。
恐怖の質が違う。
襲われるスリルよりもダイレクトな痛み、自分を失う不安が大きい。
やっぱり最大のポイントは白夜で暗くならないことですね。
白日の下で堂々と犯罪行為、はっきり言えば殺人が行われます。
殺人の決定的瞬間もカメラがあっちを向いてくれなくて、何もかもが完璧なママ見せつけられます。
特にひどいのがアッテストゥパンの儀式。
のどかだった村のイメージが一気に不穏に転落します。
明るいところで殺すな!
カメラ、ガン見するな!目を閉じろ!
リプレイするな!
なんでわざわざスローモーションなんだよ!
日常の顔で破裂した死体の前に立つんじゃない!
こんな光景、文明社会では絶対隠さなきゃいけないやつだよ。
ホラー映画でド直球すぎるよ。
もちろんこれは意図的なもので、カメラがホルガ村の住人の目線なんだと思います。
彼らにとっては残酷な仕打ちなどではなく、むしろ当事者にとっては誇らしいことだと本気で信じ込んでいるから、きっちり見届けなければならないという価値観を表しているのだと思います。
共感性の高い方は特にご注意を。
死ぬとわかっているのに回避できないのは怖い。
助けを求めて叫んでいるのに見殺しにされるのも怖い。
そこに感情移入してしまったら自分も苦しくて仕方がないです。
想像力って怖いです。
嫌なタイプのホラーだな。

先進文明社会と原始的な共同体。

我々は現代文明の真っ只中にいるので原始的な暮らしに対する恐怖があります。
その一方で、自給自足のスローライフな暮らしに対しても憧れがあります。
先進文明の行き詰まりが伺えるたびに、昔はよかった、昔に戻せという意見は必ずあります。
私の世代なんかは原始的な暮らしの体験の記憶がないので勝手なイメージで憧れてしまうのですが、ミッドサマーでは自然の掟の現実が白夜の白日のもとにくっきりと描いています。
自然を崇拝して大地の恵みを受け取るとはこういうことなので目をそらさないように。
うっかり賛成してしまうとガラガラポンに大当たりして BBQ よ。
その一方で、昔の共同体の記憶がある人にとっては、現代社会の方が冷たくて強いかもしれません。
ダニーと家族の不幸に事務的に対処するよそよそしさといったら。
恋人も友達も全然頼りにならない。
ダニーは結局、全部一人で克服しなければなりませんでした。
ダニーがパニックに陥った時にスムーズに立ち直れたのは、寄り添って共に悲しんでくれる女たちの力であったことは間違いない事実です。
みんなでハアハア言っているうちにストレスが消えていくあのシーン、きっと誰もが印象に残ると思います。
きっとあれは本心からではなく、古くから伝わる対処法を実践しているだけなのでしょうが、 そうとわかっていても素知らぬ顔をされるよりは絶対いいですよね。
ダニーの妹やオルガ村の老人のように、社会からの無言の圧力で自殺を決意するとしたなら、アメリカとホルガ村のどちらが 魂を救済してくれるんでしょうね。
現代社会でもピンピンコロリとか言って唐突な死をありがたがる風潮もありますし、重い障害を背負って生きるくらいなら死んだ方がマシという人もたくさんいます。
私はホルガ村なら、とうの昔に崖の上に立っていた人間なので、 立場的に先進文明川に立たざるを得ないのですが 、人それぞれの価値観はあると思います。


もしかしてアメリカの宗教って?

ミッドサマーでスウェーデンの描きかたについて、ちょっと嫌だなと感じました。
村が牧歌的に描かれている段階でですよ。
どんな国にも土着の宗教があると思うんですが、アメリカのキリスト教徒から見ればあんな感じなんでしょうか。
日本の古い祭りを見るとすごく興奮する理由がやっとわかったかもしれないです。
確かにキリスト教文化の中に生まれ育ったら ファンタジーワールドですわ。
彼らキリスト教一神教だから 自然の中の草木に神秘的な何かが宿っているとは気づけないんでしょうね。
なんなら我々日本人が当たり前のように考えている輪廻転生についても理解できない。
生まれ変わるって何だ?死んだら魂が天国に行くんだろう?
生まれ変わるって言われても慰めにもならない。
日本人から見るよりも、さらにワンランク上のショックでしょうね。
憧れと偏見は常に隣り合わせ。

主人公の名前がキリスト教徒という意味のクリスチャンって言うのも狙ってるんでしょうね。
あれは彼個人の物語ではなく、キリスト教徒全員に向けたメッセージなんでしょう。

嘘と謎に包まれたホルガ村

村の掟を合理的に説明していますが、嘘が多いです。
90年に1度の祭りだというふれこみで訪れたのですが、あの祭りのすべてが90年に一度のはずがありません。
72歳を迎える老人が90年に1度しか出ないはずがない。
前回の祭りを村人が記憶しているはずもない。
絶対もっと早いペースでやってますよ。
オリンピックくらい。
最悪の場合、毎年。
あれは都会の人達の興味を引くためのペレの嘘だと思います。
そして彼の両親が焼け死んだというのも疑わしいですね。
生贄に志願したかガラガラポンに当たって焼かれたのが真相では?
彼らのライフスタイルが詳細に説明されているわけでもないので、誠実に答えていないことが分かると疑い出すとキリがないです。
暮らしぶりも実に俗っぽい。
子供達がオースティンパワーズを鑑賞してるということは、テレビとビデオがあるんですね。
ガラス製品や白磁の皿を使ってますし、自動車も使ってる。
全部都会から買ってきたやつじゃん。
物語の端々から彼らの生活が文明社会にコバンザメすることで成り立っていることが伺えます。
自給自足もできていないです。
若者を出稼ぎに出して仕送りで暮らしているということ。

ちょっと話はそれますが、この辺はアメリカで暮らすアーミッシュという集団が非常に参考になると思います。
アーミッシュは独自のルールで生きている宗教団体で、今でも昔ながらの生活をしています。
電気製品と自動車を所持せず、ランプと馬車で生活しています。
農業中心の暮らしで、オーガニックな農産物を都会の意識高い人たちに高値で売りつけて外貨を獲得します。
手作りの家具なんかも製造していて、一定の愛好家もいるんだとか。
彼らはキリスト教から派生しているので、当然のことながら間引きが行いません。
アメリカは国土が広いので、村の人口が増えたら新しい村を開拓するようです。
アーミッシュの生活は興味深いですよ。
アーミッシュの面白いところは、成人する時に文明社会と共同体社会のどちらが良いか選べるところです。
子供の間は縛りが割と緩くて、学校では一般の生徒と混じって遊ぶこともできるようです。
ホルガ村では旅に出たきり文明社会に馴染んで帰らないことが許されるのでしょうか?気になるところです。
日本ではヤマギ( ry

フラグを間違えなかったダニー。

ダニーは見事に死亡フラグを回避して生き延びることができました。
それが果たして幸せかどうかはわかりませんが、仮に勝利だとして要因を考えてみました。
最大の要因はダンスゲームに勝利してクイーンに選出されたことですよね。
まさかイベント進行に必要な人を生贄にするわけにもいかないし。
あれが彼女を村に留めるための出来レースではないことを否定しきれませんが、あれがなかったとしても彼女は助かったでしょう。
彼女がダンスの輪に入って楽しそうにしていただけで成功ルートです。
言葉がわからないのに通じ合えていましたね。
ダンス競技会に誘われたのは、村人たちが共に暮らしたいと思うかを確かめる最終試験だったように思います。
ダニーはもともとペレの花嫁候補として村に招かれていたと考えています。
いくらお嫁さん候補を連れてきたと言っても、村に馴染めなかったり村人に嫌われてしまっては生活していけませんからね。
イングマールに誘われたコニーは最後まで村の文化に馴染めなかったばかりかサイモンから心変わりしませんでした。
結局話がこじれたのでイングマールは彼女を殺害した上で生贄に立候補して共に眠ることを選択したのだと思います。
クリスチャンもさっさと着替えて村の文化に溶け込んで、気に入ってくれた少女とラブラブになってしまえば良かったのに、賢者タイムで我に返って逃げ出してしまったので死亡フラグになったのでしょうね。
スペシャルドリンクを飲んだのに魔法にかからなかったということは、村の神話を信じていない異世界の人とみなされた思います。
クイーンとなったダニーが最後の生贄を選択することができたので、回避の可能性もゼロではなかったかもしれません。
もしかしたら、あの体になったクリスチャンを憐れんで助けるような選択を一度したかもしれません。
でもその時は村の長が説得したでしょうね。
それを選択すると彼と結婚して一生介護することになるが良いか?彼は長年苦しむぞと。
あの村の人たちは意地悪なもんで、村の掟を説明しないまま滞在させて、タブーを破る瞬間を待ってません?
外部の人間を連れてきて洗脳にかかりやすい気に入った人だけを選別して、気に入らなければ禁忌を破ったと因縁をつけて殺害しているように見えました。
ジョシュは生贄に使われませんでしたが、どういう事情なんでしょう?
本を盗み見た禁忌を犯してしまったからでしょうか?黒人は生贄として役に立たないのかもしれませんね。


洗脳されたダニーはどうなってしまうのか。

ホルガ村の洗脳の手口は実に巧妙でしたね。
アッテストゥパンの儀式を見せて強烈な衝撃を与えて既存の価値観をぶっ壊す。
その後慰めて警戒心を解いて、ダンス競技のような仲間との共同作業で一体感を与える。
クイーンの役目を与える
イニシエーションを受ければコロッといっちゃっても不思議でありません。
特にダニのように心が弱っているような人にとっては。
クリスチャンのことを好きな女の子がスペシャルドリンクを渡す時に警戒心を解いてと言ってましたね。
あの後、村では乱交が行われるのだと思います。
人の死を目の前にして生存本能が刺激されて性欲が湧き上がる仕組みになっているんじゃないでしょうか。
葬式後の未亡人は燃えるとか言いますからね。
そして妊娠して生まれた子供は生まれ変わりとして大切に育てられるのでしょう。
だから村人たちは生の循環を強く信じているのだと思います。
あの後も衝撃的な風習がいくつもダニーを襲うでしょう。
その都度、村の娘たちがみんなで慰めて諦めさせられ、場の雰囲気に流されている間に馴染んでいくのだと思います。
恋人が自分の誕生日を忘れていても怒れないような人ですからね。



最後に。

文化人類学に興味がある私にとっては勉強になりました。
勝手に書き散らしているブログではありますが、一応テーマは歴史と食事で、人類が何を食べて生き延びてきたのかについても興味の対象です。
古代人の営みを文章ではなく映像で見ておいて良かったと思います。
異世界転生小説では現代人が科学技術や近代的知識を利用して俺つえー無双する展開が頻繁に見られますが、ガチで転生されてしまったら一日も早く現代社会に戻らなければやばいと教えてもらいました。