ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

眺めの会 9月下旬 ノマドランド

狩猟生活で サバイブ!? 現代のノマドを描く。

眺めの会、配信ラインナップから選ばれているためか、毎回タイトルが少し古い。
映画を見ない人生だったから、過去の名作をほとんどカバーできておらず、そこから回収しているのでさらに古い。
そして古い作品になるほど日記に付けてもらえる スターが少ない。
スター狙いでタイトルを選ぶなんてもってのほか。
それでも多少のモチベーションにはなっていて、新しい作品を見ようかなという圧力にもなっています。
そこで、今回は新作から選ぶことに。
特に洋画から探してみました。

見つけたのが『ノマドランド』
去年のアカデミー賞受賞作ですよ。
Amazon の駐車場で車中泊する人の話は以前にかなり話題になったし、公開当時から見たかったんだ。
こんなに早く配信されるとは思いませんでした。
いち早くチェックチェックです。

視聴プラットフォーム Amazon プライムビデオ。
プライム会員向けの有料コンテンツです。
年齢レーティングは特になし。
字幕版と吹き替え版がありますが、今回は字幕版を選択しました。
吹き替え版だと業界用語がわかりやすい形に丸められそうな気がして。


ノマドランド。

2021年に米国で公開された 社会派ドラマ。
監督はクロエ・ジャオ。
脚本はクロエ・ジャオ。
主な出演者はフランシス・マクドーマンド
上映時間は108分で言語は英語(吹き替え・字幕は日本語)。
原作は『ノマド・漂流する高齢労働者たち』(ジェシカブルーダー著、鈴木素子訳 春秋社より出版)。

紹介しているのは Kindle 版。

あらすじ。

夫を病気で亡くしたファーン。
彼女は夫と暮らした町に愛着があり離れられず、町の主要産業が崩壊してゴーストタウンになりつつあることが分かっているのに、家の資産価値がなくなるまで踏みとどまってしまった。
ファーンはすでに定年を迎えるほど高齢となっており、正規労働を探すのは難しく、かといって貧弱な社会保障だけでは生活できない。
結果、次の生活を立て直す資金もなく、家財道具をヴァンにのせ 、割のいい季節労働を探しながらアメリカ中を旅して回る車上生活者となった。

見終わった感想 当然ネタバレも含む。

女はつらいよフーテンのファーンさん!?

車中泊しながら Amazon 倉庫の箱詰めで生計を立てる高齢者の話と聞いていたので、世の中の理不尽さをぶった斬るタイプの映画かと思ったらだいぶ違いました。
そんな手触りの作品じゃない。
Amazon 倉庫の労働の過酷さを描いた話ではなかった。
アメリカの社会保障の貧弱さを憤る映画でもなかった。
現状を受け止めて、今の暮らしをエンジョイする、かなりポジティブなお話でした。
バッチリ Amazon と名指しされて、倉庫の中で働く姿まで撮影されていて、よく Amazon から許可が出たなと驚いたのですが、労働環境はギスギスしていませんでした。
よく考えれば Amazon 批判の作品を Amazon プライムで取り扱うはずない。
そういう作品と知りつつ Amazon プライムで見る私もゲスでした。

労働の過酷さはやんわりとぼかしつつ。
みんなで歌ったり踊ったり。
炎を囲んで語り合ったり。
上手に車上生活するサバイバルテクニックの講習会を開いたり。
困ったことがあれば手伝うし、 食べ物を交換して仲良くなる。
給料の良い仕事を求めて渡り鳥のようにアメリカ大陸を駆け巡る。
その先にある素敵な出会いと別れ。
(Facebook は使えるのにおいしい仕事は口伝なのはさすが)。
世の中が近代化する前の、みんなで支え合う生活がそこにありました。

根無し草の生き方を、切なさを交えながら理想的に描いた辺りがフーテンの寅さんぽい。
喧嘩早くないしアウトローでもないけど、妹家族となんとなくそりが合わないし、 思いを寄せてくれる人からひっそりと立ち去る所とか。

この手の人情作品を見ると一瞬だけすごく憧れるけど、こんなの上澄み。
理想に寄せすぎ。

集まっているの高齢者なんです。
しかも健康にもお金にも困ってる困窮者。
何らかの事情で社会から追い出された、先が細るだけの高齢者なんですよ。
生活が苦しくて追い詰められたらすがりたくもなる。
過剰に頼られたら邪魔になる。
邪魔にされたら捨て鉢になる。
いつまでもこんな一時しのぎが通じないだろうことはうすぼんやりとはわかっているだろうに、そんな人は一人もいない。
みんな精一杯明るく暮らしてるんです。
その明るさを見たらもう泣けちゃって。
最後の一線を踏みとどまっている彼らの命の輝きを「弱者達も連帯して幸せ」みたいに煽って号令かけてる貧困ビジネスの元締めみたいなのがいてさ。
夢を信じてキャンピングカーを購入してノマドライフを選択した人もいるの。
絶対騙されてるって。
夢物語は生きる力になるけど、やっぱり夢だよ。

確かにアマゾンは季節労働者の重要な受け皿になっています。
数字さえ出せば男女の違いに関係なく給料が支払われる平等なシステム。
重労働が機械化されて男女の差が少ない、一種の理想郷。
でも作品内でも指摘されている通り、人材の使い捨てですよ。

ファーンは子供から先生と呼ばれて、ピアノが弾けて、ポエムを読めるほどの教養がある。
人間的にも老成されていて、 自動車内を住み心地よく改良したり、割れた皿を自分で治すチャレンジ精神を持ち合わせ、周囲の人にコーヒーを配るなど人間関係の気配りもできる。
「ホームレスじゃない、ハウスレスだ」
というプライドがあるからこそ維持できる。

自分がこんな生活(風呂なし!映画匂いが付いてなくて良かった)を余儀なくされたら、間違いなく社会を恨みますね。
彼らのメンタルは本当に強靭。
特に国立公園の場面では裕福で幸せそうな家族連れが 我が物顔でお大尽している横で掃除掃除して子供に風船配ってるところなどで。
うっかり自分と比べたら発狂しちゃうよ。

信念というより信仰心。
末期がんのおばあちゃん、病院ではなく美しい自然の中で死にたいと有言実行しましたが、 どうやって死ぬかは人生の最も重要なところにあるので、もう宗教でしかありません。
ああいう死生観ってインディアン近いと思う。

アメリカ大陸の雄大な自然の移ろいを味わいながら自分達も自然の一部として生きていく。
インディアン達が脈々と繰り返していたライフスタイルをここで評価するとはね。
開拓者というより侵略者。

まあスローライフの是非はともかく、文明に囲まれて忙しく暮らしている我々にとっては作中の映像が美しい。
ネット依存で効率のことしか考えないコスパ厨でもそれくらいは気づきます。
こんなに目の保養になる映画だとは思いませんでした。
ノート PC の貧弱なモニターで見ているのがバカみたい。
アメリカ大陸の絶景がこれでもかと打ち寄せてきます。
単純に美しいわけではなく恐ろしさを秘めた威厳のある自然。
あの打ち寄せる波しぶきはすごかったな。
遮るものがない延々と続く砂漠の向こうの地平線。
それをすっぽり覆う抜けるようにカラッとした大空。
あの風景は日本にはないからね。
ナチュラリストなら絶対気に入ると思います。
現実を直視させられすぎて残酷な映画なので、これくらいのご褒美はないとね。
可能な限り良い環境で見てくださいね。


余談だけど、昔読んだ本。
日本の中世の漂流者たちを研究した物。
結構専門的で難しいのであまりお勧めはできませんがインパクトはありました。
地縁社会から外れた人の生き方を垣間見るのって興味が尽きない。