ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

眺めの会・6月上旬『桐島、部活やめるってよ』

見たいと思った時が見るべき時。

前回の対象作品はエンタメの極致『トップガン
サンバカーニバルのようなアゲアゲ作品だったから今回は意気消沈するようなタイトルを選ぼうと思いました。
まあつまり邦画が見たいと。
そこで今回は積み映画の一つ『桐島、部活やめるってよ』にしました。

視聴プラットフォームは Amazon プライムビデオ。
有料コンテンツです。
何の脈絡もないタイミングだから無料で見られる作品リストに入ってません。
まあしょうがない。
レーティングは全年齢です。

桐島、部活やめるってよ

2012年に日本で公開された高校を舞台にした青春映画。
監督は吉田大八。
脚本は喜安浩平、吉田大八。
原作は朝井リョウ
主な出演者は神木隆之介橋本愛東出昌大
上映時間は103分で言語は日本語。

あらすじ。

バレー部キャプテンの桐島が突如バレー部を退部。
高校2年の中で圧倒的な存在感を放つ桐島がいなくなったことでクラスの人間関係についたら変化が起きる。

原作。

原作は朝井リョウの同タイトルの小説。
2009年に小説すばる新人賞を獲得してデビュー。
集英社文庫から文庫版が出版されている。
Kindle 版もあり。

見終わった感想 ネタバレ完全にあり。

意気消沈したい欲が充足した。

タイトルに入っている主人公的存在桐島が登場しないまま終わっていくことは事前情報で知っていた。
学校にも塾にも出てこず友達からの連絡にも答えず、人生すら辞めそうな話だとはさすがに予測しなかったけど。
なぜ部活だけにフォーカスした?!
「学校来ないってよ」では駄目だったのか?
初見ネタバレ状態だったから伏線投げっぱなしのインパクトはなかった。
もし知らないまま観ていたら桐島が気になりすぎて集中できなかったのではないか。

学内で起きる小さな事件をそれぞれの生徒の視点から時間を遡って繰り返し見る形式。
人間関係の矢印の理解が追いつかないまま進まれるとちょっと戸惑った。
でも分かってしまうと何気ない一言の本音が見えて棘を感じるようになる。
誤解が解ける種明かしならすっきりするけど、知らない方がいいことって内緒にしておいてほしい。
優しい言葉が額面通りに受け取れなくなって怖くなってしまった。
空気の読み合いとか牽制とか微妙なニュアンスで人を攻撃したり傷ついたり、みんな無意識にやってることだけど客観的に見せられると嫌な気持ちになる。
2回目を観るとその思いはさらに増す。
例えば映画部員が映画館で偶然女子と出会うエピソードがある。
趣味が合うのでは?と期待したが、彼女側の視点で答え合わせするとなりゆきで仕方なく入っただけとわかる。
映画にかかわらず、ディープな趣味で女子を見つけて舞い上がった経験ある人にとっては昔の体験を抉られてのたうちまわるのではなかろうか。
逆に偶然会っただけなのに熱意に満ちたマシンガントークに巻き込まれて戸惑った体験を思い出すのではなかろうか。
あーよかったゲーセンやパソコンショップで顔見知りの女子と遭遇しなくて。
あーよかった理系クラスで女子がいなくて。
あーよかったやる気のない帰宅部が描かれてなくて。
「主役になれない」平凡な学生たちにとって壁に頭を埋め込みたくなる恥ずかしいエピソードがきっと入っていることだろう。
ついでに言うなら自分が知らないカーストがどんな過ごし方をしているのかも見れる。
仲良し女子グループが四人から二人になるとキャラが変わるのな。
男子も吹奏楽の女子の恋愛弱者なところを笑うところとかほんとやめてやれやと。
ああいう空気の微調整を面倒だと思うから私はカーストが落ちたんだな。
結果、 高校生活にありがちなスクールカーストのドロドロが強調されちゃった。
とか言って自分でも気づかずにエグイことやっちゃったりしてるんだな。
自分の臭いが自分では気付けないように。
だから鑑賞直後の感想は不愉快まじりの「なんじゃこりゃ???」という印象に落ち着いてしまった。
評価が高く大ヒットしたという触れ込みがなければ不可解な作品としてコメントに窮したかもしれない。

バカの方が強い。

学校ではバカの方が強い。
バカの最高到達点が部活。
体育のサッカーで活躍する事より不毛。
辛い割には見返りもないコスパ最悪の無意味な苦行。
それが部活。
だからこそ、そこに価値がある。
というのがこの映画の主張。
影響面から言えば桐島が学校に来なくなったことの方が大きいにもかかわらず、あえて限定的な部活の方に主題を置いているのだからそういうことなんだろう。

対比されるのは部活を面倒事として切り捨てる帰宅部のメンバーたち。
スクールカーストの上位から高みの見物。
自由な時間を享受してスクールライフを面白おかしく過ごしている。
ノンストレスで闊歩するその姿は真面目で平凡な学生生活を送ったであろう観客たちの心の傷口に練りからしを擦り込んでくる。

その一方で彼らにはほろ苦い結末が待っている。
自称帰宅部の正体は桐島のカリスマ性に依存した「桐島部」だった。
桐島を失ったバレー部は試合には負けたけど控え選手が穴を埋めて部活は存続した。
吹奏楽の女子は失恋を乗り越えて部活に打ち込んだ。
しかし、「桐島部」は桐島なしでは集まる意義を見出せず活動しなくなってしまった。
特にひろし(東出)。
誰もが羨むパーフェクト学園生活を送ったように見えるのに、自分の中に燃えるような衝動がないことに気づいて愕然としたようだ。
クラスの隅っこにいる映画部の連中(全く接点がなく気にもとめなかったやつ!)にすら打ち込める趣味があって仲間がいるとに知った時に涙する。
さすがにこの描きかたにはリア充に対する悪意すら感じる。
リア充生活が空っぽだと結論付けることで自分の部活人生を肯定するのはやめましょう。
打ち込むものがなかったからといって何もしなかったわけじゃない。
本人が低く見積もっているだけで、絶対に大切な何かを経験している。
彼女とか彼女とか彼女とか!
たいして好きでもない彼女のことは恋愛経験にカウントされないのだろうか?
こればっかりはモテてみないと分からない(笑)。
竜汰との雑談で「部活一本と恋愛に命をかけた高校生活とどちらが良いか」と言うテーマトークがあった。
宏の答えは「やるやつは全部やるし、やらない奴は何もやらない」だった。
あの彼女が本気じゃなかったとしたら、宏は前者のように見えて後者だったことになる。なんとも皮肉だ。
宏、おでこにブーメラン刺さってるよ!
話の発端となった吹奏楽の女子は恋と部活どっちもやったというのに !!
あの吹奏楽の女子、鳴き声でアピールする小鳥みたい。
片思いの相手のキスシーンを目撃して動揺しているのにアピールを途中でやめるわけにはいかずさえずり続けた姿が切ない。
ダーウィンが来た!で求愛行動が不調に終わる小鳥を見たような気持ちになって居心地悪かったわ。

主役がいなくても社会は回っていく。

この映画は観客の過去の体験を逆撫でしてくるが、最もダメージを受けるのは桐島ポジションの人ではないか。
彼が何を思って不登校になったかは分からないが、無責任なゴシップのネタにされただけだった。
部活連中は桐島ショックを乗り越えて部活の自分のポジションに戻っていった。
桐島を置いたまま。
映画部に至っては何の影響もなく撮影が続く。

「戦おう。ここが俺たちの世界だ。
俺たちはこの世界で生きていかなければならないのだから。」

不登校の人が見たら苦い気持ちになるだろうな。
自分を振り返って胸を撫で下ろしたよ。
よかった、吐き気を催しながらも3年間通い続けて。