眺めの会・2月下旬 かもめ食堂
心を落ち着けたい。
悪いニュースばかり続きます。
世界的にも身の回り的にも。
現実から目を逸らしたいなあ。
こんな時に限って眺めの会の開催日です。
そんなもの見ている場合かという気持ちと、ここで途切れさせてどうするんだという気持ちがごちゃまぜに。
いろいろ悩んだ末に 心の波風が立たない「無風映画」を選ぼうかと思いました。
「無風」あるいは「NAGI」
何気ない日常を楽しもうと言う試み。
勝利とか成長とか出会いとか挑戦とか前向きな心をかきたてる情熱的な話はいらない。
かといって、挫折とか失敗とか無謀とか世の中の無情さを飲み干す話もいらない。
ただなんとなく始まってなんとなく終わっていく何も主張しない話が欲しい。
そこで候補に挙がってきたのが『かもめ食堂』です。
どんな話か詳しく知らないけど、 「眺めの良い場所で何の変哲もないのに美味しい料理を出してくれる女性の店」が出てくると『かもめ食堂』に例えられることがやたらと多い印象があります。
その印象だけでも今回の要望にマッチしそうだなと 軽くググってみたらやっぱりそういう話のようでした。
下調べはほどほどにして視聴します。
視聴プラットフォームは Amazon プライムビデオ。
プライム会員特典で無料で視聴できます。
レーティングは全年齢。
日本語が中心ですがフィンランド語で日本語字幕という場面もあります。
かもめ食堂。
2006年に公開された日本映画。
フィンランドヘルシンキを舞台にして中年日本人女性3人が何気なくもちょっと不思議な日常を送る様子を描く。
監督・脚本は荻上直子。
原作は群ようこ。
主な出演者は小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ。
上映時間は102分で言語は日本語とフィンランド語。
レーティング全年齢。
試し読みできたので流し読みしてみた。
清涼飲料水のように口当たりよくスルスルと喉に流れて消えていった。
見終わった感想 ネタバレは控えめで。
北欧の港町のそよ風を感じた。
期待通りに癒してくれました。
大人向けの実写版日常系作品の決定版かもしれない。
起承転結の転がなくていい。
結末的にはかもめ食堂がヘルシンキの街の人々に受け入れられていく様子を描いているのだけど、まあ別にそれはなくても成立する。
そういうのでいいんです。
うすぼんやりと夢見心地で見るには最高の映画でした。
サチエの自然な空気感が素敵ですね。
泰然自若といった感じで突っ込みすぎず離れすぎず。
そんな彼女の元に集まってくるのがひょんなことからフィンランドを訪れた日本人中年女性二人。
互いの素性を知らない女子三人組が緩い連帯で過ごす日常の様子をまったりと描かれていました。
フィンランドの暮らしがゆっくりしていて疲れた日本人は最高。
日本の日常にありがちな義務感がないから変な焦燥感からも解放される。
3人組の距離感もいい感じ。
くっつきすぎず、かといって離れすぎず。
片桐はいりから出るどことない暖かさ。
もたいまさこの不思議感。
人間関係にも適度なそよ風が吹いてました。
これぞ大人の関係、大人の出会い。
人間関係に悩む人にもいいと思いますよ。
異国情緒を楽しむのもいいですね。
市場がいいじゃありませんか。
こういうのが見たかった。
露店で野菜を買って紙袋に詰めてバスケットに入れて歩く様式憧れますよね。
肉屋での買い物も良い。
港で散歩する地元の人たちもいいね。
料理の登場のさせ方がいいですよ。
美味しそうなんだけどフードポルノ的ではないバランス感が良い。
孤独のグルメのようにもりもり食べて食欲を刺激するようなグルメ映画じゃないんだ。
視覚情報よりも嗅覚が来て記憶が呼び覚まされる感じなんだ。
あのシナモンロールの香りは良かった。
画面越しにここまで届いたね。
ただ海外生活経験者は楽しめないかもしれない。
向こうの日常を知っているので、日常から別の日常に戻るだけだから。
前のめりで鑑賞するタイプの作品ではないので 心をおおらかにしてお楽しみください。
日常と非日常の境目 ここからちょっとネタバレ。
現実と非現実の境目を綱渡りするバランス感覚がお見事。
さっきから繰り返し日常を描いた作品と言ってるけど、起きることは全く日常ではありません。
むしろ突拍子のないことばかり。
実のところ日本人はフィンランドのことを何も知らない。
あまりにも遠すぎる。
情報面でもムーミンくらいしか知らない。
それをいいことにこちらの勝手なイメージでフィンランドの日常を勝手に作り上げている。
あそこに登場するのは日本人が薄ぼんやりと脳内に描いた理想の北欧生活なのですね。
「人生の楽園」的な理想の田舎生活みたいな。
いわゆる虚構、ファンタジー。
フィンランドの一番いい季節、一番いい街角だけを切り取って作品化している。
リアリティから少し遠くて、いっそファンタジー世界に転生させておけばと思ったりした。
でもそれじゃあ波風立ちすぎ。
『そんなアホな』と思わせたらしらけてしまう。
でも現実的過ぎると窮屈だ。
何気ない非日常が描かれるからこそ、何気ない日常が浮き上がる。
なさそうだけどある。
- 日本かぶれのフィンランド人には友達がいない。
ありそうであるw。
- フィンランドの日本の伝統的なおにぎりを出す食堂。
ありそうでない。
- 窓の外から睨みつけてくる現地人。
ある。
- 呪いの藁人形を杉の木に打ち付けるフィンランド人。
なさそうだけどある。
- 散歩してる地元のおじさんから猫を預けられる。
多分ないけど絶対ないとは言えない。
- キノコ狩りで失くしたキノコが紛失したカバンの中から出てくる。
これは絶対ないけど 「そんなこともあるかもね」と流してしまった。
その虚構と現実の間を絶妙なバランスで行ったり来たり。
まるで綱渡りのようにふらふらと。
千鳥足のような緩やかなふらつきがほろ酔い気分にさせてくれた。
この手の本とかドラマとかの存在意義がよくわかってなかったけど、分かるようになってきました。
最後に一言。
「コーヒーは自分で入れるより人に入れてもらった方がうまい」と言うセリフを言われてしまって悔しいです。
ちょっと前に思いついて、どっかの番組に投稿してやろうと狙っていたのですけどね。
寝かしている間に言われてしまった。
こんなに有名かつありきたりな発想だと知らなかった。
そうと知ってしまったら使えないじゃないか。
悔しいのでここに記します。