ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

眺めの会・11月下旬 her/世界でひとつの彼女

いい夫婦の日だから最高のパートナーを仮想体験したい。

本格 SF 映画を見たいなーと考えていたのですが、カレンダーを見ると「いい夫婦の日」 が目に入ったので、 熟年夫婦ものでも見るか、と路線変更。

いい夫婦って何でしょうね。
私ども夫婦は世間の常識から相当逸脱していて、 愛とか夫婦のドラマを見ると自分たちが異常なのではないかと戸惑いを隠せません。
人間関係の結び方なんて人それぞれなんだから、型にはめなくてもいいんじゃないかと思うのです。
そんな無神論者みたいな夫婦像を描いている私なので、恋愛映画は順番がなかなか回ってきません。
だからこそ、 この機会にチャレンジしておきたい。
終戦の日に戦争映画を見るようなもんです。
とは言え最初の希望だった SF も捨てきれず、折衷案として SF 的恋愛ものを選びました。

今回選んだのは『her/世界でひとつの彼女』です。

今回も事前情報はなし。
夫婦関係に失敗したおじさんが AI の女性に恋をする近未来的恋愛映画らしいです。
それでは今から視聴してきます。
感想は後ほど。


配信プラットフォームは Amazon プライムビデオ。
プライム会員向けの有料コンテンツです。
前回のファーザーで字幕版にすればと後悔したので、今回は迷わず字幕版を選びました。
年齢レーティングは PG 12。
性的な場面は映像では少ないものの、音声では全開です。
子供どころか大人同士でも気まずくなるので一人で見ることをお勧めします。
これを夫婦で見てディスカッションなんて想像、地獄でしかない。



her/世界でひとつの彼女

2013年に公開された SF 恋愛映画。
監督はスパイク・ジョーンズ
脚本はスパイク・ジョーンズ
主な出演者はホアキン・フェニックスエイミー・アダムス 、スカーレット、ヨハンソン(声)。
上映時間は120分で言語は英語。
年齢レーティングは PG 12。

あらすじ。

近未来。
代筆屋のセオドアは妻キャサリンと夫婦関係に失敗して別居状態で味気ない日々を過ごしていた。
そんなある日、何気なくインストールした AI 搭載の OS が 茶目っ気たっぷりで興味を惹かれる。
サマンサと名乗る AIは肉体こそ持たないものの、知的で好奇心に溢れユーモアを兼ね備えた 理想的な女性だった。
そんなサマンサに好意を抱き、 彼女もまたセオドアに惹かれていくのだった。
人間と AI が肉体の壁を越えた心の絆を深め合う。

見終わった感想 (がっちりネタバレ含む)

恋とは社会的に受容された狂気。

愛の話のように見えて恋の話でした。
最初の30分くらいはだるかった。
冴えなさそうなおじさんがテレフォンセックスで猫のしっぽで首を絞める 姿をどのように処理せよというのだろうか………。
二人の関係が急速に進展しだしてからは山あり谷ありの連続で夢中になれたので恋愛映画としてはよく出来てると思う。

サマンサの声がちょっとハスキーでセクシーで良い。
これは字幕版を選んで大正解。
作中で全く映像が現れない人物像を声だけで構築するのは至難の技だと思われます。
演じたのはスカーレット・ヨハンソン
彼女の演技力がこの映画を支えたと言っても良いと思います。

でも自分ごととして受け入れることはできなかったな。
私の価値観は別れた奥さんの方に近い。
サマンサは AI なのだから、自分の好みにフィットする人格に決まってます。
屏風の中から出した白馬の王子さまと筋書き通りにうまくいって何が楽しいのか。
ときめきメモリアルというゲームが発売された時、イライラしたことを思い出しました。
ラブプラスですら10年以上前。
世界のオタクたちの 非実在彼女に対する狂気はずっと先に進んでいて、むしろ一周遅れ。近未来なのに今さら感。
もちろん私の価値観だって2周遅れぐらいしてる。
デジタルはコピーできるし気に食わなかったらリセットできる。
再現性があるのがコンピュータの利点。
製作者が仕組んだ通りに処理されると言うのが私の意見。
しかし再現できないほど複雑でランダムだったらどうだろうか。
恋愛はどうして楽しいかって、展開が読めないスリル。
サマンサが次々と繰り出す突拍子もない発想が、事前にプログラムされた筋書きなのか、 偶発的に思いついたものなのか、 それが分からないことには 楽しめない。
もしこれが前者だったら興ざめもいいところ。
よく見れば後者だとわかるのですけど、頭が固い私にはちょっと伝わりづらかった。
もう一度見直せば違った感想が出たかもしれません。

驚くほどの狂気があるとすれば、カメラ付きのポケットサイズのガジェットに感情移入できるところ。
凡人なら人形に埋め込んで仮の肉体を作ると思うんですけど。
OS を開発したメーカーが恋人用にチューニングした 人形を発売しても良さそうなものだけど。
それともすでにそういう商品はあるのだけど、インストール先がたまたまあれだったから生まれたままにしていたのか。
二人で想像しながら姿を作り上げることだってできたはずですよね。
二人の関係を音楽で奏でることはしたのに。
でも二人は最後までそれをしなかった。
そこが理解できなくて、私には狂気としか感じなかった。
サマンサの具体的な姿がない方が視聴者が好き勝手に空想できるので、テクニック的にそうしたもかもね。
こういうドラマはラジオのような音声コンテンツでは見られるけど、映像が主役の映画でやるのは珍しいのではないか。
いや、むしろラジオドラマだと彼女の存在が自然すぎて 凡百の恋愛ドラマにしか聞こえなかったかもしれない。

精神体のサマンサが常に物理の世界にお邪魔する側になっているのが少し残念。
セオドアが「君の住んでは世界を知りたい」とか言って電脳世界に乗り込む展開があってもよかったのではないか。
今回はたまたま相手が AI だったけど、次元が違う異質な存在と交流するときは、 相手に合わせることも必要だったとは思う。
ふたりは互いに無いものを補い合う素敵な関係だと丸め込まれそうになりましたが、 ちょっと好奇心が足りなかった。
だから何百人と同時進行で浮気されるのだ。
ミステリアスな彼女と24時間監視されている彼氏ではどちらが勝つか火を見るより明らか。

もちろん恋愛ドラマとしてはよかったですからね!?
二人の言葉が誠実で感動を超えて居心地が悪くなりました。
逃げの答弁はしないのだ。
相手が言外のメッセージを受け取ってくれることを期待して はぐらかしている自分が恥ずかしくなりました。
黙ってるって卑怯だ。
彼らのような気持ちの打ち明け方が標準だとしたら、日本人のどれだけが生き残れるか………。
こんなコミュニケーション絶対無理。
手紙を使った 気持ちの伝え方も手本にはできるけど真似はできそうにない。
ありゃ代筆屋の天才だ。

ツボにはまったのは女友達が制作したパーフェクトママになるゲーム。
台所でちまちまと料理を作る作業ゲーかと思いきや、 料理と子育て完璧にこなして周囲のママ友に差を見せつける業の深いゲームでした。
子供たちのイベントの差し入れにインスタ映えするおしゃれなスイーツを差し入れする時のドヤ顔がもう最高。
ゲームバランスが超ハードで、パーフェクトママを目指す人生がいかにクソゲーで無理ゲーか疑似体験できる素晴らしいゲームでした。
迷宮を抜け出す方のゲームで出てくるクソガキも可愛い。

映像で驚いたのが、逆立ちするジェット機
何だアレ?
以前に見たアンソニー・ホプキンスの『ファーザー』でも巨大なえぐれた頭に驚きましたが、海外作品には時々こういうギョッとする映像が出てくる。
フクロウの羽ばたきスーパースローバージョンのインパクトあったけど。
我々が感じないだけで邦画にも日本独自の仰天景色があるのだろうか。
あるのかな………せいぜい等身大ガンダムくらいじゃないか。


この映画の結論としては、同じ場所に止まるのは何よりも苦痛、 心は常に成長して変化する、 人間関係も変化は避けられないということらしい。
つまり恋には終わりがあって、別れはいつか来るもの。

いい夫婦の日には不都合な結論でした。
なんとなく良い事言った感じで締めくくろう。


恋とは偶然、 愛とは必然。


皆さん良い夫婦で。