ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

眺めの会(定期映画鑑賞会)6月上旬 kubo二本の弦の秘密

ストップモーションアニメを見よう。

先月からキウイのゼスプリが新しい CM を始めましたね。
私はこの CM のちょっと馬鹿らしいノリが好きです。
そしてキウイの造形が可愛い。
あの瞳がたまらない。
あのキウイのマスコットが発売されるということで、もう欲しくてたまらず、五十がらみのおじさんが恥を忍んで娘に買ってきてもらうようにお願いしようかと悩んでいたところ、転売ヤーが出るほどのめちゃくちゃな人気で入手困難だった模様です。
あんなものって言っちゃなんだけど、自分以外にもグッときている人がたくさんいたことに驚きました。
でも仲間がたくさんいてくれて嬉しいよ。

あの CM はストップモーションアニメ、こまどりで製作されているのですが、動きがなめらかで人間が中に入っているみたいです。
特にダンスシーンがよく動いていて何回見ても夢中になります。
たくさんの人形をバランスを考えながら少しずつ動かして撮影する手間を考えたら正座してみたくなります。
CG ではなく人形だから物理法則には逆らえないのでジャンプする場面とかを描くにはちょっとした工夫が必要なんですよね。
それでいてカメラがぐるぐる回るのに驚き。
リアルに撮影するためには様々なアイデアが盛り込まれていると思います。



今回はストップモーションアニメが見たくなったので、そっち系の長編映画を探してみます。
選んだのは『クボ 二本の弦の秘密』です。
制作したのはライカ、情弱の私でも耳にしたことあるほどにストップモーションアニメの大御所です。
東洋、というかモロ日本を舞台にした作品で、三味線で折り紙の人形を操る少年の物語です。
なんかいかにもって設定ですが、折り紙がストップモーションで動くなんて当たり前すぎて斬新だ。

視聴プラットフォームは Amazon プライムビデオ。
プライム会員は無料で視聴できます。
まじかよラッキー。
字幕と吹き替えが用意されていて悩みますが、私は字幕版を選択しました。
子供にも楽しめるストーリーだから字幕を読みながらでも十分に楽しめると考えました。
日本の物語を日本人でない人が 脚本していて、日本人にはどこか違和感が残らぬはずもなし、和洋折衷ならそれらしく英語で見た方がトータルでの満足度は高いだろうと判断しました。
もちろん全年齢と言うか子供に見せたい系の映画です。


クボ二本の弦の秘密。

2016年米国で公開されたストップモーションアニメで ジャンルはアクション時代劇。
監督はトラヴィス・ナイト
脚本はマーク・ヘイムズ 、クリスバトラー。
主な出演者はシャーリーズセロン、アートパーキンソン、レイフファインズなど。
上映時間は102分で言語が英語(日本語吹き替え版はあり)。

あらすじ。

三味線の音色で折り紙を操る不思議な力を持った隻眼の少年クボは実の祖父・月の帝から残った片目を執拗に狙われて母と共に海辺の村で暮らしていた。
しかし追手に見つかってしまい放浪の旅に出る。
追跡から逃れるには帝と戦って命を落とした父半蔵が探した三つの武器を手に入れて戦うだけ。
クボは命を吹き込まれた人形の猿と 陽気な侍のクワガタとともに旅をする。

見終わった感想とバリバリネタバレ。

瞬きするなら今のうちだ。

超楽しかった。
折り紙の動きが想像を超えてた。
三味線の音色のエモさもあって超 coool。
我々にとって当たり前のはずだったものが、海外の人の手によって改めて再発見させられました。
折り紙が勝手に動くやつ、子供の頃に散々 E テレで見てきたので、完全に子供が見るやつと馬鹿にしてました。
立体的に動くと見え方が全く変わる。
猿のアクションも非常にダイナミックでCG なのか着ぐるみなのかわかんないくらいでした。
もちろんストーリーも世界観も非常に良く出来ていて、日本人が見ても全く違和感がない。
あ、でも主人公の名前クボはいただけない。
日本人には久保あるいは公方としか認識されないのわかってただろうに、なんでこんな名前にしたんだろう。
久保の名前は最後まで違和感が拭えなかった。
日本文化に対するリスペクトが感じたから嫌ではなかったけど。
最強の日本刀に対抗するために鎖鎌を持ちだしてきたのは超絶 分かってる。
この手の作品は日本のイメージが偏って描かれていて失望を感じることが往々にしてありますが、むしろ日本人の方が忘れていたものを見つめ直す機会をもらえるのではないかと思います。
お盆の墓参りなんて完全に作業だった自分が恥ずかしい。
本物でもない偽物ではないリアルな質感がもたらす刺激が私をいちいちハッとさせるんですね。
お墓のある杉の森の中の描かれ方とか、ああいう風景を実物で見たことあるけど実写ではピンとこなかったことでしょう。
CG でなんでもできる中で、あえてストップモーションにこだわる理由などないのではないか?と考えていたことも撤回します。
苦労を乗り越えてくる何かがある。
「瞬きするなら今のうちだ」という決め台詞とは裏腹に、めちゃくちゃ時間をかけて一コマずつ撮影してる という現実にニクいね。
折り紙の折りたたんだところとか折り重ねてあるところの質感は見ていて気持ち良い。
クワガタの黒光りする体とか、 kubo の潤んだような光を放つ瞳なども良い。
Kubo が暮らす洞穴までの岩場のルート、 カメラがずっと引いて場面があるんですが、超望遠で人形が米粒にしか見えないくらいまで引いて景色を捉えていて、どんだけ巨大なセットを作ったんだよと目を見張りました。
巨大といえば骸骨侍。
人形の大きさを考えると'大きいな'とは思いましたが、エンドロールでちょっとだけメイキング動画が見られて、その大きさにぶったまげました。
クレイジー

メイキング動画を見つけたので、半信半疑の方はこれでも見てやってください。
もう気が遠くなります。

村人たちも純朴な人柄で、婆様の語り口は癒されました。
なんかちょっと懐かしくて、ストップモーションということもあってか、浜乙女のでーたらぼっちの CM を思い出しました(これローカルかな?)。

ストーリーは昔話風。

ストーリーは勧善懲悪の仇討ち系だったのでシンプルでわかりやすいというところもある反面、説明なく突拍子なところもあり、昔話風だなと思いました。
猿とクワガタをお供につれて船で渡るところあたりは桃太郎じゃ。
妊娠したせいで親族から執拗に命を狙われるところはギリシャ神話っぽい。
三味線で折り紙が操れる能力の秘密は全く明かされないし、母親の魂が猿の人形にうつった秘密も語られません。
生前の母親とは性格が違いすぎて破綻スレスレではないでしょうか。
父親が記憶をなくしてクワガタの姿で再会するとか都合が良すぎますわ。
月の帝の目的は kubo の眼球なのだから猿など放っておけばよかったのに、妹二人は命令そっちのけで猿の命を狙うところも謎。
どんだけ姉に依存してるねん。
そして三種の神器が大して役に立っておらず、けりをつけるのは三味線の力。
あの三つの武具なくても勝ってたよね。
苦労して揃えたのは何だったのか。
3本の弦が何を意味するのかは理解してますよ。
最終的には3本のハーモニーで勝たねばならない。
ただサルの教えた目標が少しずれていたことと本当の目標に気づいたきっかけの掘り方が浅かったように思いました。
あれを揃えれば帝に勝てるというのは父親のハンゾウの物語 、あれを必要としたのは半蔵だったが父は破れて物語は終わり、クボにはまた別の何かを得て勝利する物語があるべきだと言うことなんでしょうか。

目も当てられない黒歴史

猿とクワガタの掛け合いがテンポ良くて面白かったですね。
なんだよこの夫婦漫才は。
と呆れていたら、やっぱりそのオチでした。
猿のあてこすり方とかクワガタの屁理屈は台詞回しがちょっと日本ぽくないのですけど、まあそれでも夫婦のよくある小競り合いが再現できていたと思います。
あれの間に挟まれる子供の心境は複雑ですよね。
そしてもっと痛いのが両親の馴れ初め。
Kubo が父親の人物像を母に尋ねた時もなんとなく歯切れの悪い曖昧な表現に徹していましたが、 語り継がれる物語に登場する勇敢な侍の実態が あのクワガタとはね。
母親は脚色がうますぎる。
そしてトップシークレットとされていた二人の馴れ初め。
子供は絶対聞きたがるけど両親にとっては恥ずかしすぎて答え辛いやつ。
それがあの二人、 決闘中に恋が芽生えているの。
「そなたは美しい」
それがあのクワガタのプロポーズ。
Kubo、 強く生きろよwww。

月の帝。

月の帝は天皇の事だと容易にわかりますが天王星の非 人道的な側面を突かれているようでとひやひやしました。
天皇は人ではないから死なない代わりに人としては生きられない 、民草の血の通った暮らしを見てはならんのですね。
天皇として生まれた時点で天皇制というシステムの一部として生きなければならない。
やんごとなき姫君の縁談の様子を見ても大変そうだもんな。
クボの両目を潰すというのは皇族に迎えるという意味だと思います。
彼は男系男子じゃないから厳密には天皇にはなれないけど。

月の帝の結末については解釈に悩みます。
最後に記憶を失くした状態で村の仲間になったけど、市井の人として暮らした経験がないのだから記憶がないのは当然。
村人たちは彼の記憶を埋めるためにあることないこと吹き込むのですが、 あれは優しい嘘なのか、それとも本当にそうだったのか、最大の引っかかりはそこでした。
つまり下々の者は天皇に敬意を持ってその政治に温かみを感じて彼の功績を正直に話していたということではないかと想像しました。

類似した物語はいろいろあるだろうけど。

なんとなく精霊の守り人を思い出しちゃいました。
少年チャグムは実の父である帝から命を狙われたため女用心棒のバルサの助けを借りて逃げるのですが、その間に庶民のあったかい暮らしを知って 行くのでした。
なんやかんやあってチャグムは皇太子として迎入れられたので 母のように守ってくれたバルサと別れて気軽に物も言えない冷たい 王宮に帰らなければならなかったのでした。
帝の人ならざる価値観と少年が母とは違った母性と出会うあたりが kubo に共通していたかなと思います。