ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

眺めの会(定期映画鑑賞会)11月下旬 ミスト

胸糞悪いと聞くと見たくなる。

先日 TBS ラジオの番組、 アルコ&ピースの DC ガレージという番組を聞いていました。
そこで ミストという映画が超不愉快という話で盛り上がってました。

特に映画をプレゼンするための時間ではなく、話の成り行きでミストの話題に移っていったのですが、ミストを見る前と後では人格が変わっているとまで言わしめる超絶胸糞映画だと紹介されました。
子供と一緒に見て感想を話し合いたいとか、逆に大人になるまで見せないで酒を飲みながら語り合うか、 とにかくそういうことがしたくなる映画だという話でした。
どうやら地上波で定期的に放送されているほど知名度の高い作品らしいですが、 テレビ習慣のない私が知ることなく、ここまで来てしまいました。

そういえばこの映画のタイトル、前にアフター6ジャンクションの特集でも聞いたぞ!?
確かコロナの緊急事態で「今こそパンデミック映画から学ぼう」という特集の時に言及されてましたね。
その結果、「パンデミックの時に最も恐ろしいのは人間」という、人類にとって不都合で不本意な答えが導き出されたのでした。
特に宗教指導者のように振る舞うおばさん が超恐ろしいらしくて、 パニックを起こした時の人間の残酷さ伝えられました。

そこまでみんなが嫌がっている映画なら見てみようと。
本当に胸糞が悪くなるのか、自分の目で確認してみようと。
全くおかしなものですね。
結末を知らないで最後にバッドエンドだったならともかく、そうだとわかっていてわざわざ見るなんて。
自分から不愉快なものを見て不愉快な気分になって何が楽しいのでしょう?
でも見ちゃうんだな。

今回のプラットホームは Amazon プライムビデオです。
プライム会員特典で無料で視聴できます。
字幕版を選択しました。
レーティングは15歳未満禁止です。
子供と一緒に見ちゃいけないですよ。


ミスト (字幕版)

ミスト (字幕版)

  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: Prime Video

ミスト。

2007年にアメリカで公開された SF ホラー映画。
監督・脚本はフランク・ダラボン
主な出演者はトーマス・ジェーンマーシャ・ゲイ・ハーデンローリー・ホールデン
原作はスティーブンキングの小説「霧」で1980年に発表された。
上映時間は125分。
言語は英語。

あらすじ。

湖畔で暮らすドレイトン一家 (デビッドと妻のステファニーそして八歳の息子ビリー)。
彼らが暮らす街を、ある日突然、深い霧の嵐が襲った。
嵐が過ぎ去った翌朝、破壊された家を修復するためにデビッドは息子のビリーと、隣の別荘に滞在する弁護士のノートンを伴って町まで買い出しに出る。
満員のドラッグストアで買い物していると、店の外で大きな騒ぎがある。
逃げ惑う人の中には、霧の中に何かがいて襲われると叫ぶ人がいた。
デヴィッドと買い物客たちは万が一に備えて店の中に避難したが、その直後に周囲が霧に包まれて停電した。
そしてドラッグストアの人々は孤立した。
デヴィッドたち数人は電力を復旧させるため倉庫裏に向かうが、霧の中から飛び出す正体不明の触手に襲われて、一人が命を落とす。
デビットは霧の危険性を店内の人々に説いたが、突拍子もない話に誰も耳を傾けようとしない。
しかし、彼の制止を振り切って外に出た人が無残な形で帰って来たことでパニックとなった。
みんなが騒然となる中、客の一人、 妄想癖のあるカーモディは神からの罰と騒ぎ出す。
その突拍子もない話に耳を傾ける者はいなかったが、度重なる恐怖の連続に理性を失うと、次第に変化が現れ出す。


原作。

原作はスティーヴン・キングの短編集に収録されています。



2017年には Netflix にてドラマシリーズが公開されています。
全10話。

www.netflix.com

見終わった感想たぶんネタバレ。

人間の弱いところを突きつけてくる残酷な映画。

これ以上残酷な映画はないだろうというくらい残酷でした。
そして醜悪。
人間の嫌なところをこれでもかというほど見せつけてきました。
視覚からではなく精神を責めてくるタイプです。
モンスターの造形はそんなにきつくなかったです。
進撃の巨人とか、鬼滅の刃程度なのでちょろいちょろい?


インパクトでかすぎカルトおばさん。

強烈なのはカルトの女性。

恐怖のあまり、神の裁きが始まったと思い込んでしまう。
すっかり怯えすぎたこの女性は、キリスト教の言い伝えを過激に解釈して、目の前で起きている不可解な現象に説明がつくように物語を作り上げてしまいます。

元々ぶっ飛んだ人だったらしく、最初の方は近所の人たちを中心に「また始まったか」程度にスルーされていました。
しかし、 事態が深刻になるにつれ信者を獲得していきます。
「今夜はもう襲撃されない」「私を襲わなかった」などいくつもの偶然が重なり、予言を的中させたこともあって、一気に信者が増えます。

教祖爆誕です。

信者にとって彼女の言葉は神の言葉と同じですから何でも聞きます。
一辺の理性さえ残っていれば、到底できない指示であろうとも 顔色ひとつ変えずに実行してしまいます。
もちろん外側からの助言は一切耳を貸さない。
もう理屈は通じないんです。
あの狭いドラッグストアで、極限まで追い詰められた人間達と対立するには相当な覚悟がいると思います。
間違った正義の暴走、怖すぎる。
法と秩序のいかに脆弱なことか。
しかも武器が原始的だから一層怖い。
人間のむき出しの野蛮さと向き合わされてしまいます。

絶望することで希望が見える。

絶望しすぎて希望が見えてしまいました。
我々はこの映画を見るだけで、カルト宗教が誕生する過程を見ることができるのです。
つまり、カルトに対する免疫ができる。

私は常々主張しているのですが、"起承転結"はやばいです。
特に歴史上の出来事を起承転結にするとやばい。
なぜかと言うと分かりやすいから。

分かりやすく点と点を繋いで引いた線は、たとえ関係ない出来事のつなぎ合わせであろうと、物語性のわかりやすさ故に、簡単に理解できてしまうところがやばい。
歴史などの出来事はそんなにシンプルに繋がってません。
であるにも関わらず、自分にとって合理的につじつまがあってしまうと「そうに違いない、そうであってほしい」という方向に迷い込んでしまいます。

不可解な事件が起こった時、ワイドショーは物語を作ってまとめようとしますね。
もっともらしい理屈がつけば安心するから。

結末の絶望からも希望が見える。

そして衝撃の結末についても、絶望から希望が見えました。
自分たちの「よく考えた」「やれるだけの事はやった」 がどれだけ中途半端なものか。
ちゃんと考えてないじゃん。
最後までやり抜いてないじゃん。
自分さえその気なら、まだ力を尽くせたはずなのに、勝手に自分から打ち切ったじゃん。
だからこそあの結末はえぐかった。
私だって「ベストを尽くした」という答えに自分達も納得したもんね。
だからこそ腹が立つんだ。
自分自身に。

私も難病で寝たきりの身体なので、何度も「俺も終わったな」と思う瞬間はありました。
道路で転んで動けなくなった時とかね。
一人で寝ている時に虫の群れに襲われて一晩中一方的に刺されまくった時とか。
白血病を宣告された時は「いよいよ死んだな」と思いました。
でも結果的には生きている。
と言うか生かされています。
あの映画の登場人物の中で、立場的に一致しているのは、全身火傷で苦しんでいる人だったかもしれません。
遅かれ早かれそうなる運命ですしね。
彼だけはデビットたちの一方的な判断で、行けるところまで強制的に行かされしまいました。
なんだよ、あいつら! 人には苦しみを貫かせておいて! 自分勝手な奴だな。


結果的に言えばオカルトに取り憑かれて狂ってた方が楽だったような気がします。
その判断が正しいか否かは別として。
正しい道とは苦しいものです。
大自然、あるいは神の意志とも言うべき超自然と決別して、知性と理論で生きていくことを選ぶということは、そういうことです。
科学を信じるなら、それくらいの覚悟はいるんです。
これからは「もうだめだ」と思った時は、この映画を思い出すことにします。
意外とすっきりしたと言うか、 挫折に対する免疫がついたと思います。

『霧』の正体は先行きの見えない未来?

この映画で胸糞が悪くなった人は、自分が想像するベストな選択をした人が救われずに、 間違ってそうな人が結果的にオッケーだったのだと思います。
逆に言えば救われた側にとっては胸すく話だった可能性もあるかもしれません。

私が思うに、この映画で深い霧が暗示するのは未来に対する恐怖、「先行きの見えない未来」なのではないかと思います。
人は割と単純に未来は輝かしいものだと信じ込んでいます。
しかし現実には 一歩先すら見えない霧の中。
そこに飛び出して行けば自分はどんな目に合うかわからない。
かりそめの安全だとしても内側に身を置いていたい。
心のドアを閉ざして、社会の理不尽さを叫んだり、あいつが悪いと犯人探しをしたり、はたまた絶望したり。
そこで覚悟を決めるのか、他人に判断を委ねるのか。
大人しく裁きを待つにせよ、可能性を求めて行けるところまで進めるとしても、決して後戻りはできない覚悟を要求されるところが怖いのかなと。

コロナには役に立ちそうにない。

人類はパンデミックに対してどう振る舞うべきか、ということをパニック映画から学ぼうとしましたが、この映画は役に立ちそうにないですね。
と簡単に結論を出そうとしましたが、コロナの影響で家庭内 DV を受けている人にとっては他人ごとではないのかもしれませんね。
だとしたら嫌だな、怖いな。

www.tbsradio.jp