ぺんちゃん日記

食と歴史と IT と。 Web の旅人ぺんじろうが好奇心赴くままに彷徨います 。

鳥刺しに適した解体手法 外はぎについて調べる。

鹿児島宮崎で鳥刺しによる食中毒が少ない理由。

鶏を生で食ったら当たると教えられたにもかかわらず、近頃では鳥刺しが当たり前のように流通しているのはなぜか?
ということが気になって仕方がなかったのです。
そこでフグをさばくような特別な解体方法があるのではないかと調べてみたのです。
そこで分かってきたのが外はぎと呼ばれる解体手法です。

外剥ぎって?

外剥ぎとは鶏の内臓には手をつけずに前足や太ももなど外側から順番に各部位を剥ぎ取る形で体から外していく方法です。
内臓を傷つけないの汚さずに解体することができます。

www.kyoto-chii.biz


サルモネラ菌カンピロバクターなどは鶏の肉ではなく内臓に生息しているので、 内臓に触れなければ汚染されないという理屈になります。
もちろん未熟な作業者が内臓をわずかでも傷つけてしまったら汚染された危険な肉となりますので 誰でも簡単にできるというわけではありません。
つまり熟練の職人が一羽ずつ手作業で解体することになります。
安全ではあるが生産性を上げることが難しい処理方法ということです。

鶏は一般的には中抜きと言って機械で内臓をすっぽりくり抜く形で解体します。
何しろ機械で行うので早いです。
大量生産できるので値段も下がります。
ただし大きさも形も一羽ずつ違う鶏を機械で処理するとなると 細かな調整はできないので内臓を傷つけることがあります。
一度でも内臓が傷ついてしまえば、機械が汚染されてしまうので、それ以降その機械で処理する 鶏は全て汚染の恐れありとなります。


鳥刺しの時は外はぎで解体されてるの?

さて、その外剥ぎの手法は本当に鹿児島や宮崎で利用されていて、安全確保に役に立っているのかどうかです。
こちらのブログによれば、やはり外はぎが推奨されているようですね。

宮崎県がガイドラインで外はぎを推奨しているソースが見つかりました。

宮崎県は2007年に作ったガイドラインで、解体時に内臓を最後に処理して汚染を防ぐ「外はぎ」の方法を提唱。肉の表面を焼いて殺菌する「焼烙(しょうらく)」を勧める。

鶏肉の生食、リスク分かるが… 自粛要請に戸惑う業界:朝日新聞デジタル

宮崎県の鶏肉解体のガイドラインがありましたので参考資料として紹介します。
これを読めばブランドを守るためのこだわりが分かりますね。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000040840.pdfwww.mhlw.go.jp

鹿児島県のガイドラインはこちらです。
https://www.pref.kagoshima.jp/ae09/kenko-fukushi/yakuji-eisei/syokuhin/joho/documents/66345_20180614110024-1.pdfwww.pref.kagoshima.jp

この資料を見る限り中抜きによる処理を生食用に使うことは禁止されてはいないようですね。
処理業者ごとに歴史とノウハウがあるので、ある程度の裁量を認めながら責任持って安全を確保せよということでしょうか。

外はぎなら安全?

伝統的技法の外はぎであれば、安心安全に鳥刺しをいただけるのでしょうか?
その安全性を確認してみます。

外はぎで解体した鶏の汚染調査の報告書が愛媛県から出ています。

https://www.pref.ehime.jp/h25122/2541/tyousa/documents/h20tokunaga_1.pdfwww.pref.ehime.jp

これによると、外はぎで解体しても処理場によってはカンピロバクターが発見されるケースもあるようです。
原因は設備を正しく運用できていなかったことが原因のようです。

内臓さえ傷つけなければ汚染されないはずじゃ!?
見習いの職人が失敗したのか?

そういうわけではなさそうです。
内臓から出る血液で汚染されるではなく、消化物から汚染されるルートもあるのです。
消化物、有り体に言えばおなかの中のうんちがお尻の穴から出てきて 肉の表面にくっつくことで汚染されるということですね。

ゲゲゲのゲ。

完全に誤解を招くような表現ですが、そのような汚染を防ぐために水洗いと消毒を行なっています。
その処理があまいと除菌しきれないということですね。
例えば水の量が少ない、温度が適切でないなどです。
設備を適切に運用していた処理場は問題が発見されなかったのは大きなポイントでしょう。

堅実な業者はこれだけでは安心しきれないので、表面を焼いて殺菌する 焼烙を行っています。
菌は肉の中にまでは入り込めないので表面を焼き固めるば内部は生でも安心という理屈です。
鶏肉料理で言えばたたきとか湯引きのことですね。
鶏肉に限らず、ローストビーフも 表面を焼き固めて殺菌するスタイルですね。
表面に火が通ってしまうので生で食べられる部分は減ってしまいますが、ここまで行けば リスクは限りなくゼロに近づきます。
感染経路は多岐に渡るので、生肉のまま扱う限りは安心できないんですね。

結局焼かないと危険なんじゃねえか!
まあその通りですね。
逆に言えば機械で中抜きされたものでも、表面をきっちり焼き固めれば十分な殺菌が可能とも言えます。
中抜きが禁止されていないのは、こういった事情かと思われます。
それでもゼロにならないのが悩みどころですが。

結論。

外はぎによる解体法は伝統的で技術が凝らされていますが、それだけで食中毒は防げるものではありません。
衛生管理は、さばき方だけでなく、解体前から提供までトータルで 考えて初めて成し遂げられるものです。

鳥刺しは適切に処理してあれば比較的安全に食べられることは分かりました。
適切に処理するには時間と技術が必要です。
消費者側としては「安いからお得」「高いから安全」と油断せずに真面目にやっている信頼できる店を選ぶことを心がけたいですね。

最後に。

鶏に限らず、生の肉にはリスクがあります。
だから食べるなというのは簡単ですが、事故を起こさず真面目に衛生管理している店もあるのです。
一律に禁止するのではなく、恐れるべきところは恐れ、楽しむべきところは楽しめば良いのではないでしょうか。
もちろん、リスクの判断能力がない人は避けるべきです。
食べたがったからといって子供に与えるのはやめましょう。
万一感染した場合、重篤な症状に陥りやすい体力のない人、子供や老人は避けるべきです。
大人でも、まれにギランバレー症候群を発症することもあります。

www.healthcare.omron.co.jp

食中毒は数日間お腹が痛くなるだけで寝てれば治ると思ってませんか?
なってから後悔しても遅いです。

繰り返しますけど、恐れるべきところは恐れ、楽しむべきところが楽しみましょう。